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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第四章
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復讐と暴力の挑戦者 1

 ランベルグ帝国武闘大会、それは世界で唯一魔法を認めた国が行なう、なんでもありの世界最強決定戦だ。表向きは。

 なぜならば、チートに近い魔法使い達はほぼ参加していないのだ。それで最強を名乗るなど、井の中の蛙大海を知らずだ。

 実際、かつて世界最凶と呼ばれた魔法使い、『不可能を可能にする男』、『生首の挿げ替え暗殺者』などは参加しておらず、していた場合、他の全てを圧倒して嘲笑い、勝負にすらならなかっただろう。

 要するに、この武闘大会は井の中の蛙達の大会なのだ。


 去年までは。



ーーーーーーーーーーーーー



 貴族どもの会話が、うざったく耳にこびり付く。

 前回大会の優勝者と言う事で、見晴らしの良い特等席に招待されたが、貴族どもとの会話はたまらない。何より、私をみる視線が。それでも、一般の観客と席を同じにする気はないが。

 私はただ、この武闘大会を見に来ただけだと言うのに、なぜ貴族どもの相手をせねばならないんだ。


「リリエンス殿はご存知ですかな? あなたを推薦なさったレイフォード卿が行方不明になったのは?」

「……ええ。屋敷が火災で全焼した、と報告を受けております。生死は不明、でしたか」


 どうでもいい。

 ルミナス・レイフォードが消えた? だからどうした。

 あの男が私に何を与えた? 金か? 地位か? 住む家か?

 どれも違う。あいつは、ただ私に情報を与えていただけだ。

 私は、ただあいつの言いなりになっていただけだ。

 大会で優勝し、やっと奴から解放されたのだ。今更、蒸し返すように奴の話をしないでほしい。

 

「彼はきっと生きていると、私は信じています。……試合が始まりますよ」


 恐らく死んでいると思っているが、唐突に話を変えるのはまずいので、生きている事にして話を変えた。信頼しているのですな、などと馬鹿なことを言っているが、無視して舞台の方を見る。

 そこでは、予選と言えど一瞬で決着がついていた。


 フードとロングコートで全身を隠した、変な男だった。


 そして、衝撃が走って来た。

 

「勝者、ランベルグ帝国が誇る勇者! レオ選手です!」


 その男は、私が一年前に冒険者としての生涯を奪った男だった。




 その権力を使ってか、男はすぐに私の元へ来た。

 私のそばで貴族どもが震え上がっている。それほどまでに、今の勇者は敵意を剥き出しだった。


「丁度一年振りだ。久し振りだな、カノン・リリエンス」

「…………レオ」


 帝国が誇る魔王の最終兵器、レオ。

 尖った黒髪に、切れ長の鋭い瞳。彼が微笑めば、どんな女でも墜ちると言われる美男子だ。私は別にどうも思わない。無関心だ。

 十数年前、見事魔王を討伐し、神出鬼没の英雄なんかをやっている——否、やっていた男だ。

 一年前、私に敗北するまでは。


「一年だ」


 レオはその整った顔で、私を睨みつける。世の女性ならば、そんな顔をされれば自殺ものだろう。私は別にどうとも思わなかったが。

 黒の眼帯が、彼の左目を隠している。右手に鞘に入れた剣を杖のように持っており、右足は義足かなにかだと解った。


「あれから一年、俺はお前への復讐だけを考えて生きて来た」


 レオはそう言って、眼帯を外した。

 そこから見えたのは——。

 うえっと、後ろの貴族が言うのが聞こえた。私も、これはあまり見ていたいものではなかった。


「お前に俺の痛みが解るか? てめえが抉った俺の目は、まったく治らなかったぞ。てめえが奪った俺の足は、戻っては来ねーぞ」


 眼帯を付け直し、レオは憤る。


「こんなんじゃ人前にも出れやしねー。本当、感謝してるぜ、カノン・リリエンス。俺に強くなる機会をくれた」 


 レオは踵を返し、最後にこう付け加えた。


「復讐だ。選んどけ。左目を抉られ右足引きちぎるか、素っ裸にして靴の裏舐めさせられるかをな」


 純粋に、恐怖を感じた。

 勇者と呼ばれた男が、どうしてここまで怒るのか解らないが——面白い。

 

 その復讐、受けて立とうじゃないか。


 私は、思わず笑みをこぼしてしまった。

 それを周りの貴族が不気味がるのは、頂けなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



 コツコツと音をたて、俺は闘技場内を歩いていた。

 再びフードで顔を隠しているので、行き違った奴に声を掛けられる事はない。通り過ぎた後、振り返って俺を勇者じゃないかと思う奴らは何人も居たが、足早に去って話しかけられるのを避けていた。

 というのも。


 フードの下に隠された俺の顔に浮かぶのは——狂気に歪んだ笑み。


 隠せない。

 あれから、俺の笑みは隠し様も無かった。


 ずっと復讐の機会を狙っていた?


 嘘だ。


 一年間、お前への復讐だけを考えて人里離れた所で修行していた?


 嘘だ!


 左目を抉られ、右足を奪われた俺の痛みが解るか?


 痛みなんか感じてねーよ!


 復讐なんざ、そういえばそんな事もあったな、ついでにやっとくか、程度だ。

 左目抉って、右足切り取る? 素っ裸にして靴の裏舐めさせる?

 そんなもん、別にどうでもいい。やらなくてもいいし、やってもいい。


 今は、勇者として、それで収めといてやるよ。


 なのに何だよ何ですか? あの恐怖と狂気に染まった表情は?

 

 いいぜ、カノン・リリエンス。

 お前は最高の変態だ。お望み通り、しっかり叩きのめしてやる。

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