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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第三章
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エピローグ

 目が覚めると、見慣れぬ天井だった。


「ここは……?」


 起き上がろうとすると、お腹に違和感が。

 痛みこそ無いが、何かが溢れるような感覚。


 ああ、そう言えば僕は刺されたんだっけ。


 それよりも、ここはどこだろう。

 病室を思わせる白い部屋だ。広くもないが、圧迫感も無い適度な広さの部屋。部屋には窓が一つと、純白のベッドに小さな机しかない。

 窓から外を見ると……真っ青な空間が広がっていた。

 その光景に、僕はやっとここがどこだか気が付いた。


「マ、モル……?」


 と、扉が開き、女性の声がした。

 聞き覚えのある声だった。


「お久しぶりです、エリス……姐さん」


 僕がそういうのと同時に、その女性は僕に飛び掛ってきた。


「マモルっ! すっごい心配したんだから!!」


 母さんと同じ真紅の瞳に、プラチナブロンドをツインテールにした、見た目二十歳程度の美人。

 ほお擦りをしてくるエリス姐さんは、僕の叔母に当たる人だ。

 どうでもいいが、僕を小動物よろしく可愛がるのを止めて欲しい。今もほお擦りしながら僕の頭を撫でまわしている。

 抱きつかれたりするのは嬉しいが、男としてちょっと不満があるのだ。


「え、エリス姐さん……お腹の傷が開いちゃう」

「それよ! 一体誰なのよ! 私のマモルに傷を付けてくれちゃった人は!」

「大丈夫だよ、痛みは無いから」


 だいたい、これは僕の不手際、自業自得なのだ。

 っと、そう言えば。


「ところで、どうしてエリス姐さんがここ(・・)に?」


 ここはヒビキの管轄だ。エリス姐さんには、もっと大事な場所を頼んでいたはずだ。


「マモルが刺されたって報告があって、飛んできたのよ」

「ってことは、僕を見つけたのはヒビキ?」

「そうね……あのいけ好かない男ね」


 いけない、エリス姐さんはヒビキの事が嫌いだったな。

 よし、じゃあヒビキに話を聞きにいこう。

 と、僕が起き上がるとエリス姐さんが引きとめてきた。


「ちょっとマモル! 安静にしてなきゃ駄目でしょ!?」

「大丈夫だよ。それより、僕に刺さってたナイフは?」


 あれは存在していてはいけないものだ。魔王の力なんて、僕一人で十分だ。

 無視されてむすっとするエリス姐さん。可愛い。

 いや、僕は叔母さん相手に何を言ってるんだ。


「ナイフって、これ?」


 そう言ってエリス姐さんが見せてくれたのは、溶解して炎のような形になった鉄の塊だった。


「多分、魔王の能力に耐えられなかったのね。完全に使い物にならなくなってるわ」


 良かった。魔王の力を持つ魔法具なんて、この世に存在してはいけない。

 それを残すことは、大罪に等しいだろう。


 ところで、とエリス姐さんが僕に白い目を向けてきた。


「マモル……『憤炎』を使ったわね」


 エリス姐さんは怒っていた。鋭い目つきで、僕を睨んでいる。

 

「マモル。あなた、覚えてる?」

「……」


 つつっと傷口を撫でて、エリス姐さんは言う。

 僕は何も言わない。

 何を覚えているって聞いているんだ?


「あなたが刺された日、何があったか覚えてる?」

「ええ。助けに……行きましたよ」

「誰を?」


 うるさいな、わかってるよそんな事。

 あんなでたらめな魔法が、なんのリスクも無いわけじゃないって事は。


「誰でもいいじゃないですか」


 僕はエリス姐さんの指をどけ、何かを言う前に『憤炎』でその傷を無かった(・・・・)ことにした。

 ふとエリス姐さんの顔を見れば、難しい顔で僕を見ていた。


「マモル。その魔法は、もう二度と使っちゃ駄目よ」

「できればそうしたいね」

「できればじゃない。絶対に、使っちゃ駄目」


 きっと睨むエリス姐さんが、何を言いたいのか僕はやっとわかった。

 姐さんは、寂しがっているのだ。

 僕までもが、姐さんの下から消えてなくなるのを。


「安心して、エリス姐さん」


 僕はそっとエリス姐さんを抱きしめる。

 もう、僕等二人しかいないんだから。


「父さんの言葉じゃないけどさ」


 そう最初に言って、僕は囁いた。


「例え記憶を失っても、僕の初恋がエリス姐さんなのは変わらないから」


 ぼっと顔を真っ赤にするエリス姐さんに、僕は更なる追い討ちをかける。


「僕らは、二人しかいない家族だよ? 記憶のつながりが無くたって、血のつながりがあるんだ。エリス姐さんは一人じゃないんだ」


 これでしばらくエリス姐さんは再起不能、僕の行動にケチはつけまい。

 そう思っていたが、ここで誤算が。


「そうよね。家族だものね。じゃあ、——んっ」


 そう言って、エリス姐さんはキスしてきた。

 潜り込んでくる柔らかな舌。甘美な感触。


「いってらっしゃいのキス。マモルには、まだ早かったかしら?」

「————ッ」


 どうやら、エリス姐さんのほうが一枚上手のようだ。 


 


ーーーーーーーーーーーーーーー

 


 『憤炎』

 

『一つ、使用者にとって理不尽である結果を生み出す事象を消滅させられる。

 一つ、ありとあらゆる魔法、物理現象に対して優先権がある。

 一つ、この魔法を使用した対象を、使用者の記憶から完全に消滅させる』




これにて、第三章『悪の勇者と親愛の魔王』は終了です。


少々早い話ですが、第二部からは三人称になります。

作品のタイトルを第二部として新たに出すか、このまま続けようか考えていますが、どちらのほうがよろしいでしょうか?

よろしければ、ご意見を頂けると嬉しいです。


では第四部、『復讐と暴力の挑戦者』で。

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