悪の勇者と親愛の魔王 9
皇帝に魔王を倒した報告をしに、俺は一度帝都に戻った。
その後、祝勝会を開こうとする皇帝に、『探さないでください』と家出少年宜しく置手紙、俺はアリスと共に田舎へと移り住んだ。
エリスは魔王の城に残った。
「花嫁修業よ」
「エリス~、それは一体誰のために?」
「……」
なんてにこやかに話している二人だったが、雰囲気だけは戦場だった。
こういうとき、俺がどちらか片方につくと巻き込まれて大変な目に合うので、俺は無言でいる。口は災いの元だ。
住まいは、田舎の村の外れに自分達で作った家だ。
小屋というには少々大きく、ちょっとした屋敷にも見える。魔王の娘と勇者の住まいとしては、少々豪勢さが足りないが。
新居に住まいを移して初めての夜、食後にアリスは俺にしなだれかかってきた。
「やっと……二人きりになれましたね」
「そうか? 結構二人で過ごした時間は長かったと思うが」
そうじゃないの、解かってるでしょ?
そう言って、アリスは俺の首に手を回す。柔らかな感触が押し付けられた。
「ユートは、変なところでガードが固いんですもの。お父様がいるの、気にしてましたか?」
アリスは妖艶な笑みを見せて、俺を誘惑する。
違うな、全然違う。間違っているぞアリス。
「私は、そんなに魅力がありませんか?」
そう言ったのが、最後だった。
「んんっ! っ……ひぅ」
俺はアリスの耳を甘噛みする。魔王の城にいた時に発見した、アリスの弱点だ。
ピクピクと体を震わせ感じているアリスに、悪魔の囁きのように語り掛ける。
俺はさ、狼なんだよ。凄く我慢してた。
それを抑えていたのが無くなったって、アリスは解かってるか?
「言ったよな、アリス。いつでも良い……って」
「ふぁ……、は、はい」
「その前に、俺の好きなようにしていいって聞いたの、覚えてる?」
「——ッ!!」
俺に弱点の耳に吐息を吹きかけられ、アリスは俺にしがみついてきた。
必死で何かに耐えているような表情のアリスは新鮮で、俺の情欲を煽る。
「俺の好きにさせてもらうよ、アリス。俺無しじゃ生きられないようになっても、後悔するなよ?」
対してアリスは。
「目一杯愛してください」
と、俺の唇を奪っていった。
あれから一年、俺たちに息子ができた。
「ねえユート、この子の名前、決めた?」
「ああ。アリスは?」
「ええ、私も」
どちらがふさわしいか勝負、というのは変だが、俺たちはそれぞれ生まれてくる子の名前を考えていた。
「俺は勇者だからな。その息子には、やはり世界を守れるような——強い男に育って欲しい。だから——」
「私は魔王の娘だから。この子には、お父様のように家族を——愛する人を守れる人になって欲しい。だから——」
そこで俺たちは顔を見合わせる。
奇しくも、考えていたことは同じようだ。
それならば。
「なあアリス。これでもし俺とアリスが考えていた名前が同じだったら、それって——」
「——運命みたい、でしょ?」
そして俺たちは答え合わせをした。
俺達の息子の名前は——、
「「マモル」」