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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第三章
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悪の勇者と親愛の魔王 9

 皇帝に魔王を倒した報告をしに、俺は一度帝都に戻った。

 その後、祝勝会を開こうとする皇帝に、『探さないでください』と家出少年宜しく置手紙、俺はアリスと共に田舎へと移り住んだ。

 エリスは魔王の城に残った。


「花嫁修業よ」

「エリス~、それは一体誰のために?」

「……」


 なんてにこやかに話している二人だったが、雰囲気だけは戦場だった。

 こういうとき、俺がどちらか片方につくと巻き込まれて大変な目に合うので、俺は無言でいる。口は災いの元だ。 

 


 住まいは、田舎の村の外れに自分達で作った家だ。

 小屋というには少々大きく、ちょっとした屋敷にも見える。魔王の娘と勇者の住まいとしては、少々豪勢さが足りないが。


 新居に住まいを移して初めての夜、食後にアリスは俺にしなだれかかってきた。


「やっと……二人きりになれましたね」

「そうか? 結構二人で過ごした時間は長かったと思うが」


 そうじゃないの、解かってるでしょ?

 そう言って、アリスは俺の首に手を回す。柔らかな感触が押し付けられた。


「ユートは、変なところでガードが固いんですもの。お父様がいるの、気にしてましたか?」


 アリスは妖艶な笑みを見せて、俺を誘惑する。

 違うな、全然違う。間違っているぞアリス。


「私は、そんなに魅力がありませんか?」


 そう言ったのが、最後だった。


「んんっ! っ……ひぅ」


 俺はアリスの耳を甘噛みする。魔王の城にいた時に発見した、アリスの弱点だ。

 ピクピクと体を震わせ感じているアリスに、悪魔の囁きのように語り掛ける。


 俺はさ、狼なんだよ。凄く我慢してた。

 それを抑えていたのが無くなったって、アリスは解かってるか?


「言ったよな、アリス。いつでも良い……って」

「ふぁ……、は、はい」

「その前に、俺の好きなようにしていいって聞いたの、覚えてる?」

「——ッ!!」


 俺に弱点の耳に吐息を吹きかけられ、アリスは俺にしがみついてきた。

 必死で何かに耐えているような表情のアリスは新鮮で、俺の情欲を煽る。

 

「俺の好きにさせてもらうよ、アリス。俺無しじゃ生きられないようになっても、後悔するなよ?」


 対してアリスは。


「目一杯愛してください」


 と、俺の唇を奪っていった。

  



 あれから一年、俺たちに息子ができた。


「ねえユート、この子の名前、決めた?」

「ああ。アリスは?」

「ええ、私も」


 どちらがふさわしいか勝負、というのは変だが、俺たちはそれぞれ生まれてくる子の名前を考えていた。


「俺は勇者だからな。その息子には、やはり世界を守れるような——強い男に育って欲しい。だから——」

「私は魔王の娘だから。この子には、お父様のように家族を——愛する人を守れる人になって欲しい。だから——」


 そこで俺たちは顔を見合わせる。

 奇しくも、考えていたことは同じようだ。

 それならば。


「なあアリス。これでもし俺とアリスが考えていた名前が同じだったら、それって——」

「——運命みたい、でしょ?」


 そして俺たちは答え合わせをした。 


 俺達の息子の名前は——、


「「マモル」」


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