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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第三章
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悪の勇者と親愛の魔王 5

 私は人間が嫌いだ。

 母様を殺した人間が嫌いだ。父様を殺しにくる人間が嫌いだ。


 最近、父様を殺しにしょっちゅう人間が来る。でも父様は何故か喜んで、その人間を迎え入れていた。まるで母様の後を追いたいように。

 死地へ飛び込むような父様を振り向かせたくて、私は引き篭もった。

 効果は絶大だった。

 どちらかと言うと外で遊ぶのが好きな私が引き篭もったのは、父様にとってはまさかの出来事だったらしい。

 毎日部屋から出てくれと泣き叫ぶ父様は、とても魔王には思えなかった。

 ただ、ノックは凄く五月蝿かったけど。


「エリス……どうしても出てこないというのなら、儂とて策を練るぞ」

「ふん」


 ある日、唐突に父様がそんなことを言った。

 そう言いながら、ちゃんと扉の前にご飯を置いていく父様は何がしたいんだろう。

 それからしばらくして、ノックがした。

 ノックでノイローゼになりかけていた私は、思わず叫んでしまった。


「うっさい馬鹿! ノックすんな!」


 それで静まったかと思うと、父様にしては珍しく扉に攻撃をしてきた。

 私の魔術で強化された扉は、びくともしない。


「ばーか! いくら父様が扉を攻撃しても、絶対に壊れないわよ!」


 今思うと、ここで扉を素直に開けておけばよかった。

 父様の言う策も対したこと無いわね、なんて思っていた私は、痛い目を見た。


 突然だった。


 突然、窓ガラスが割れ、男が部屋に入ってきた。

 知らない男だった。雰囲気が妙に暗く……恐かった。

 そして、父様に負けず劣らずの威圧感。

 殺される、と思った。

 

 それが、私とユートの出会いだった。

 


  -----------


 

 私は人間が嫌いだ。けど、人間のユートを嫌ってはいない。嫌っていないだけで、好きとはいえなかったけど。

 父様は殺しにこられていると言うのに、人間と仲良くしろとよく言っていた。

 だから、その父様が雇ったという人間、ユートに少しだけ興味があっただけだ。



 ユートは、最初は何にもできなかった。

 紅茶を入れるのも、皿を机に置くのだって下手で、しょっちゅう皿を割っていた。その癖、何故か威張っている。確かに、ストレス発散に私が殴りに行っても、一度も殴れたことは無かったけど。

 一日、二日と経つと、ユートは何でも完璧にこなすようになっていた。


「俺は天才だからな」


 なんて言っているが、本当の天才なら一度目で完璧にこなすだろう。

 ユートはどちらかと言うと、失敗を繰り返さないような、天才的努力家なのじゃないかと私は思った。



「じゃあ、出かけてくる。俺がいないからって、寂しがるなよ?」

「誰が寂しがるもんですか!」


 ユートはいつも私を子ども扱いする。凄くむかつく。

 けど、怒った私を撫でてくれるユートは……なんでもない。


 ユートは一週間に一回、どこかに出かけていく。

 人探しをしていると聞いていたが、どんな人なのかは知らない。ちょっとだけ、気になったけど。

 鏡に映る自分の姿は、うん、文句無しに可愛い。

 自分で言うのはあれだけど、私はかなり美人だ。腰まである銀髪はさらさらで、体型も出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる。母様にどんどん近づいているみたいで、父様がよく可愛いと言ってくれるんだから、間違いない。

 でも、私はこの城から出たことが無いから、本当に自分が美人なのかよくわからない。外の世界を知っているユートにとっては、私なんて可愛くないのかな。


「——ッ」


 誰かが城に入ってきた気配がした。

 父様は今、ユートに頼まれて魔物たちに話をしに言っている。何でも人間達は、魔物を率いて世界征服を企んでいるのが魔王、という印象をもっているみたいだ。

 何で、そんな面倒なことを企むと言うのだろう。父様の器では間違いなく、統治できて村一つじゃないかな。

 ユートも出かけちゃっているし、私しか出られるのはいないのか。

 仕方なく、私はその気配の方に近づいていった。


「あなた達、誰よ?」


 城の中を勝手に歩き回っている奴らがいた。

 四人組で、全員が妙に光沢のある装備を身に付けている。

 あっ、父様、結界張るの忘れていったな。


「あん? なんだこの女」

「あなた達、ここが魔王の城だと知って——」

「おい、聞いたか!? ここやっぱり魔王の城じゃねーか!」


 むっ、途中で割り込まれた。

 というか、一体なんなのこいつら。父様から言われているから、一応話はするけど。

 妙に殺気立っていて、中には私に変な視線を向けてくる奴もいて、なんか嫌だ。


「あん、てことはテメエ……魔王の娘か」

「——ッ」


 背筋が震えた。

 男の視線が、すごく気持ち悪い。これが人間? やだ。こんな奴らと仲良くなんて——。


「おい、何やってるんだ」


 と、廊下に良く通る声が響いた。

 私は、その声の主を知っている。

 

「ユ——」

「あん? て、テメエは、ランベルグの勇者じゃねーか!?」


 ユートを呼ぼうとした私は、その言葉に口を閉じた。

 勇者?

 ユートが、魔王を、父様を殺しに来た——勇者?


「丁度良かった! こいつ、魔王の娘だぜ!? こいつ人質にして、魔王をぶっ殺そうぜ!」

「——ッ」


 ユートは、そんな事しない。

 そう思えるのに、私は怯えたように後ずさりしていた。

 そして、ユートは言った。


「ああ、殺すか」

「————」


 声にならなかった。

 一瞬で、ユートが私の前に現れる。その動きは、まるで見えなかった。

 ああ、ユートはこんなに強かったんだ。

 それを知ると同時に、何故か、安心してしまった自分がいた。


 それはきっと。


「お前らをな」

「え……」


 ユートが私を抱きしめてくれたから。


 男達は、声をあげる暇すらなかった。

 一閃。

 ユートが右手を振るのと同時に、何かが倒れる音がした。

 ユートに抱きしめられていて、私には何があったのか見えない。

 それは、私には見えないようにユートが抱きしめていたのだと、私はわかった。

 すぐにユートが離れ、私の目を見て謝ってきた。 


「悪いな、エリス。騙すような形になって」

「……」

「本当ごめん」

「…………」


 真剣なユートの顔は、凄くかっこよかった。 

 頬が熱くなる。胸が苦しい。


「絨毯、汚しちまった」

「そっち!?」


 やっぱりさっきの無し!


 冗談だ、とユートはポンポンと私の肩を叩いた。

 そして、笑って言った。


「それより、何泣きそうな顔してるんだ? 俺がお前を殺すとか思ったのか?」

「……うん」


 あまりにも軽い質問に、思わず頷いてしまう私。

 それを笑い飛ばすユート。


「安心しろ。俺は魔王と約束してるんだ。だから、殺さない」


 その約束の内容を聞かない限り、安心はできないと思うんだけど。

 だけど、それは私が言っても変わらないことだと思う。

 だから、私はあえて何も言わない。


「ほら、せっかくの美人が台無しだ。笑え」

「……ばか」


 ……どうしよう。

 これはきっと、間違っている。駄目なんだ。

 私は、ユートが好きになってしまった。

 でも、駄目だ。

 魔王の娘と勇者だからじゃない。

 私は、知っている(・・・・・)。知っているから、駄目だし、辛い。

 ユートが探している人が、やっとわかった。

 ユートと一緒にいたい。けど、それは駄目だ。

 気付いて欲しくない。気付かれたら、そうなったら、私は……。


 どうしたら良いのか、私はわからない。


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