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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第三章
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悪の勇者と親愛の魔王 4

「……何が目的なんだ、魔王」

「勇者よ、貴様は言っておったな。儂が死んだ後の責任を持つ、と」


 俺は今、魔王と並んで魔王の城の中を歩いている。

 なんだって、こんなことになっちまったんだか。


「……ちっ。そんなこと言ったな」

「…………覚えてないとは言わないのだな」

「当たり前だろ。俺は勇者だぞ?」


 勇者だから嘘はつかない——そんな訳が無い。

 ただ単純に俺は、何度も戦ううちにアンタを、ただの敵とは思えなくなっていただけだ。

 守りたかった人間よりも、アンタの方が気が合っただけだ。


「それより何だ、俺に殺される覚悟が出来たのか?」

「違うわ! ……貴様、少々図に乗ってはおらぬか?」

「まあな。アンタが俺を殺さずにこうして魔法を掛けたって事は、俺を殺す気は無いんだろ? なら、俺がどう振るう舞おうがアンタは俺を殺せない。精々、いつも通りにさせてくれ」 

「これでいつも通りとは……つくづく呆れた男だな、おぬしは」


 魔王は、俺に魔法を掛けた。

 魔術ではなく、魔法を。

 

 俺は今——死ぬことが出来ない。


 正確には、超回復という魔法を喰らっていて、死ぬような傷も一瞬で治ってしまう。

 これは、どんな切り傷も立ち所に治すという、恐ろしい魔法だ。

 副作用に、掛けた人物の言いなりになるという、恐ろしい魔法だ。

 いや、副作用がメインだろ、絶対。

 倒すべき相手の言いなりとか、屈辱だ。

 ……だが。


「……正直、俺は飼われるのに慣れてしまっているのかもな」

「何か言ったか?」

「いや、何も。で、なんだよ? 俺に頼みたいことってのは?」

 

 魔王は、俺に殺されても良いと言った。


 俺に掛けられた呪いとも言うべき魔法は、さしもの魔王でも解除できなかった。

 だから、解きたければ殺してよい。

 そう、魔王は言ってくれた。

 ……頼みを聞いてくれたら、という条件付で。

 俺は、世界のために戦っちゃいない。

 自分のために、戦っているんだ。

 だから、別にこれでもいいかな、と俺は思った。


 悪い、もう少し、待っててくれないか?

 胸くそ悪いんだよ。ただ皇帝の言いなりになって、何の意味も無く魔王を殺してしまうのは。



 じゃあ教えてくれ、魔王。その頼みって奴を——。

 魔王は、神妙な顔をしてこう言った。


「……引き籠った娘を、部屋から出してくれぬか?」



「何で俺が!? 親のアンタがやれよ!」

「断る! 儂は死にとう無い!」


 どんな気性の荒い娘だよ……。この親にして、この子ありって奴か?


「貴様……、今、とんでもなく失礼なことを考えんかったか? 違うぞ! 娘は儂とは似ておらぬからな!?」

「自分に似るのは嫌だったのか……」

「当たり前だ! 儂の妻は偉い美人でな……」


 親バカの話は聞き流し、俺は娘が引き籠っている部屋へと向かっていた。魔王が娘の自慢話をしながら、先導している。

 魔王の城は掃除が行き届いており、廊下の隅にも誇り一つ落ちていない。良い執事やメイドでもいるのだろうか。


「ここだ。頼んだぞ、勇者よ」


 魔王が指差した先には、ミスリルの扉が。

 ……この城は、思った以上に金がかかっている。


「案内はした。では、儂はこれで失礼する」

「……良いのかよ? 俺はアンタの娘を人質に取るかもしれないぞ?」

「何を言う。貴様は勇者なのだろう?」

「……喰えない爺だ」


 明らかに逃げ腰の魔王を手で追っ払い、俺は扉を見据えた。

 ……一体、娘とやらはどれほど強いのか。

 コンコン、とまずはノックしてみ——。


「うっさい馬鹿! ノックすんな!」


 耳にキンキンと声が響いた。

 扉と壁越しにしては、やけに大きな声だ。何らかの魔術で声を通しているらしい。

 しかし……、年頃の女の子が部屋に入る時、ノックをするな、か。

 魔王よ、一体どんな育て方をしたんだ。

 話を聞く限り、美人らしいが——。

 実力行使と行きますか。

 俺は剣——ではなく、魔王からもらったミスリル刀を構える。本当、金が惜しみなく使われている。魔王が統治する国が存在しないから、金は余っているのかもしれない。いや、そうなると収入はどこから? 魔物を倒して金を稼ぐことも出来ないし、税収と言うのも無い。まさか、自給自足? どうでもいいか。

 この武器の性能は斬ることにある。じゃあ、邪魔な扉を取っ払いますか。

 俺は刀を居合い抜き、扉を一閃。


「……は?」


 瞬間、刀が粉々に砕けた。

 手に握られた柄だけが虚しく残っている。刃が木っ端微塵だ。


「ばーか! いくら父様が扉を攻撃しても、絶対に壊れないわよ!」


 どうやら、何らかの魔術か魔法で扉を硬くしているらしい。

 そして、俺を父親、魔王だと勘違いしているようだ。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「……という訳だった。で、父親のアンタはこの後どうしていた?」

「…………やはり駄目だったか」


 項垂れる魔王に、最初に会った頃の威厳はまるで無い。

 まるで無いのに……、俺はこちらの方が好きだった。

 皮肉なことに、俺が守りたかったのは、こういった家族の馴れ合いだったのだから。

 家族のいない俺が、望んだ物。

 ……何故だろう。守りたかった人間には、こういった家族の温かみが無く、倒すべき魔王にこういった面があるのは。


「…………」

「どうした、勇者よ? 浮かない顔をしておるな」

「……どうもしない。で、アンタはいつもこの後どうしていた?」

「昼に食事を届けた」


 駄目だこいつ、完全に娘を甘やかしている。

 ……いや、別に引き篭もってても良いのなら構わないが。

 俺としては、一刻も早くあの子に会いたい。


「……魔王、一つ相談があるが、いいか?」

「なんだ? 儂を今この場で殺すことは不可能だと先に言っておくぞ」


 俺は狂戦士じゃないんだが……。



ーーーーーーーーーーーーーーー



 俺は今、魔王の城の屋根にいる。

 そこから見下ろした景色は、あまりにも綺麗過ぎてなんともいえなかった。

 魔王の城なんて、赤紫の毒々しい海と生物の欠片も無い山々に囲まれ、どす黒い雲に覆われた場所にあると思っていたが、それは大きな間違いだったようだ。

 だが実際は、その逆だった。綺麗に晴れ渡る空、輝く海、木々の生い茂った山々。

 この城の場所が、世界で一番美しいのではないだろうか。

 そんな場所だからこそ、魔王は城を建てたのではないだろうか。

 そう思う、今日この頃。

 敵の城で何を寛いでいるんだか。

 まして、敵の願いを叶えようとしているのだから。

 俺は屋根から飛び降り、


「きゃっ!?」


 魔王の娘の部屋のガラスを割って侵入した。その際、何か悲鳴が聞こえたが気にしない。

 そして、部屋の中を見渡して——。


「——ッ」


 腰を抜かしている少女を見つけた。

 少女は、俺を一目見て。


「と、父様ぁあああ!」


 扉からすごい勢いで逃げ出していった。

 ぽたぽたと血が滴り落ちた。

 ……おっと、頭を切っちまってた。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「だいたいユート! あなたは何であんな入り方をするのよ!」

「お前が引き籠っていたからだろ?」

「私は部屋から出たでしょ? なんで世話役なんかになってるのよ!」

「帝国には帰れないからな。人探しの宿屋にちょうど良かっただけだ」

「魔王の城を宿屋代わりって……あなたって何者?」


 俺はしばしその解答を考え、そして苦笑を浮かべた。


「愚か者……だな」

 



今までのストーリーで気になる点がありましたら、この章で解決しようと思います。

何かあれば、感想をよろしくお願いします。

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