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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第三章
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悪の勇者と親愛の魔王 3

「小僧。貴様は面白い奴だな。濁り淀んだ目の中に一筋の光が見える。何が貴様を狂わせない?」

「アンタに攫われた女の子を助けるためなんだよ!」

「攫った? 儂が? それは何かの勘違いだな」

「そうかよ! だからと言って、俺がアンタを殺さなくていい理由にはならないんだがな!」

「…………分からず屋め」

 

 殺されるアンタにしてみれば、そうだよな。

 

 魔王を倒した所で、この世界に平和など訪れやしない。


 魔王は、魔物の頂点に君臨こそすれ、それを統べる者ではなかった。


 魔物が人を襲うのは、生きるため。それを一体どうやって止めろと言う? 儂なら、勝手に健康を維持して繁殖してくれる人間、その生活区を脅かすようなことはせず、出て来た人間をこっそり喰らう事を進めるぞ。


 そう言った魔王の言葉に、俺は言い返せなかった。

 それよりも、勇者なんてシステムが、よりおぞましく思えて来た。


 これはもしかすると、皇帝だかなんだかの不老不死の実験なんじゃないのか?

 そう思えて、魔王を倒してこのシステムを潰さなければならないと思えていた。

 それに、魔王を倒す契約で魂を縛られている以上、俺が人間に戻るためには、魔王を倒さなければならないのは、変わりなかった。


 魔王が彼女の事を知らないと言ったが、俺にその真偽を確かめる術は無い。

 俺はただ、魔王に取って彼女が数えられもしない命だった、なんて結末を望まないだけだ。

 そうであったなら、尚更俺は魔王を倒すために尽力するだけだが。



ーーーーーーーーーーーーーーー



 死んだ。

 これで何度目の死だろうか。


 俺は魔王に何度と無く殺されている。数えるのを諦めたくらいだ。

 だが、すべては無駄ではない。

 戦うたびに、俺は魔王に手傷を負わせている。

 最初の戦いで、俺は魔王の腕に傷を負わせた。それは完治には程遠く、そこに隙が生まれている。二度目の戦いでは、頬に鋭い切り傷をつけた。その後、魔術で木っ端微塵に吹っ飛ばされたが。三度目、俺は腹を剣で貫かれながらも、同士討ち覚悟の一突きで魔王の胸に浅い傷をつけた。

 その頃からか、魔王に確実な焦りと困惑が見えたのは。

 魔王に腹を剣で深々と刺された俺は、だが笑みを浮かべていた。


「何故、貴様は生きている!?」

「あんたが知る必要は——無い!」


 そう言って、俺は体内の魔力を暴走させた。

 魔力は、力だ。俺は、自分の体を構成する目に見えない力をすべて外向き、魔王に向けて使用した。

 結果、俺の体は崩壊した。

 代わりに、魔王と言えど無視することが出来ない、莫大な量の魔力が魔王に向けて放たれた。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「前回の貴様の攻撃の所為で、城が揺れたではないか!」

「まじか。揺れただけかよ」

「魔王の城を舐めるな!」

「俺を舐めてるからだ」


 台詞的には俺の優勢に思えるだろうが、実のところ俺は両腕が無かった。膝をつき息も絶え絶えだ。対して、魔王は全身から血を滴らせていた。

 俺は腕の生えていたところからぼたぼたと溢れ出す血液に魔力を注ぎ、その形を自在に操る。


「——っ!!」

「化物みたいなアンタには、俺みたいな化物とのダンスがお似合いなんだよ!」


 溢れ出る血流は、腕の生え際へと循環する。馬鹿にならない魔力の緻密なコントロール、そして強靭な精神力を有さなければ、血流ブレードなど扱えはしない。

 自在に動く血の刃を従え、俺は魔王と乱舞を繰り広げた。



ーーーーーーーーーーーーーーー



 死んだ。

 目覚めたのは、もう見慣れた帝都にある教会だ。

 転移の魔法具(市場ではかなり高価だが、帝国の魔法使いが作っているので無料で手に入る)を使うと、一度行ったことの在る場所には数秒で行けるので、魔王の城にはすぐに向かえる。だが、その前に前回の反省をしよう。

 どうやらいくら循環させていたとはいえ、血を失いすぎていたようだ。前回の死因は出血多量だな。戦っていたときの記憶が大分無い。だが、あの血流ブレードはかなり使えた。が、あれは前回限りだろう。

 俺は新しい体に慣れるために節々を動かしながら、次の戦略を考えていた。


 二刀流。

 魔王の攻撃を片手で受け止められるようになった俺は、二本の長剣を駆使して魔王を攻めていた。

 発想は、前回の血流ブレード。あの時は、剣と腕の代わりに生やした、二本の血流の刃で戦った。そのときに、二刀流の動きはなんとなく把握した。

 魔王の剣がぶつかるその狭間に、闘気で足腰と受け止める剣を持った腕を強化する。俺は人間としては化物みたいな魔力を有しているが、それは魔王に比べれば微々たる物だ。こうやって節約して使っていかないと、長期戦になったときに対応できない。動きの要所要所で身体強化を行なう。

 今回は、魔王が劣勢だ。

 前回の戦いから三日。まだ体調が万全ではないようだ。

 その顔には、苦悶が見える。


「どうした魔王? いつもの切れが無いな!」

「うるさい! 貴様には関係ないことだ! いや、すべて貴様のせいだ!」


 ん? こうやって言い返されるのも初めてだ。

 戦うことで相手の心情を読めると言うが、生憎俺には魔王の心は読めない。

 だから、言葉にして尋ねる。


「何だ? 言ってみろよ。アンタが死んだ後、俺が責任もってやるから」

「ほざけ! ——ッ!?」


 不意に、魔王はその動きを止めた。そして、何事か考える様に顎を撫でる。

 俺はその不可解な動作に一度距離を取り、様子を見——。


「そうか! その手があったか!」

「ッ!?」


 魔王が目に見えるほどの魔力を集めだした。

 しまった。いつも俺は魔術を使わせぬように、接近戦を仕掛けていたのだった。

 俺に、魔術の耐性はあまり無い。

 何せ、死んで復活すればいいだけの話だからだ。……なあ、魔術師。


「試させてもらうぞ! 勇者!」

「何が——」

「貴様が何をしようと甦るのかを!」


 瞬間、俺の意識は飛んだ。



ーーーーーーーーーーーーーーー



 死んだ、ようだった。


「……くそ」


 二刀流でいい感じに攻められていただけに、この敗北は痛い。魔王に何の手傷も負わせることが出来なかった。

 まあ、二刀流は十分に使えるという収穫があったし、良しとしよう。

 俺は新しい体に不具合が無いのを確認すると、すぐさま装備を整え、魔王の城へと発った。

 前回の死から、一日だった。


「来たな、勇者よ」

「……今回は、あまり驚かないんだな」


 前回、殺されて三日で来た時は大慌てしていた。転移の魔法具を使用すれば、どこからでも魔王の謁見の間まで徒歩五分だ。

 だが、今回の魔王は少し違っていた。

 攻撃が面白いように決まる。

 今回は一太刀しか持ってこなかったが、その攻撃が次々と決まっていく。魔王の動きに切れが無い。


「どうした魔王! 昨日より酷いぞ!」

「……勇者よ、何故貴様は儂を殺そうとする?」


 不意に、魔王がそう尋ねて来た。

 唐突に。

 だから俺は、何度も自分に言い聞かせて来ていた解答を、思わず口にしてしまった。


「アンタを殺さなきゃ、俺は人間に戻れないんだよ!」

「何だと?」


 驚く魔王を気に留めず、俺は剣を振るう。

 化け物から——人間に戻るため。


「…………」


 魔王は、何かを考えるように俺を見つめていた。

 ……何かがおかしい。前回の最後から、何かが変だ。

 

 そう思っていたというのに、俺は調子に乗った。


 魔王が不意に剣を投げ出した。

 それをチャンスと捕え、俺は剣を構え魔王に突撃する。魔王も、素手で俺に向かってきた。

 交錯、そして——。

 魔王の手を、俺の剣が貫いた。


「がっ!?」


 だが溢れたその声は、魔王に剣を突き立てた、俺のものだった。

 腕一本と武器を投げ捨てての特攻。

 俺はそれを、魔王の最後の悪あがきだと思った。だが、違ったのだ。

 それは、一発逆転の一撃。


「小僧! これで、全て終わりだ!」


 ぎしぎしと掴まれた頭が悲鳴をあげる。

 その激しい痛みに、思考がままならない。だが、剣は掴んだままだった。

 がむしゃらに剣を振り回している俺は、もはやどうでも良かった。


 何を言ってるんだ、魔王。俺は何度でも甦るし、何度でも繰り返す。アンタが死ぬまで、何度でもだ。

 ……何度も、繰り返さなきゃならないんだ。

 これからも、いつまでも……あんたが死ぬまで。



 そして、俺は意識を失った。



 ああ……、また繰り返すのか。

 魔王を倒すまで永遠に続く魂の呪縛。

 これは、あと何年続くのだろう。

 俺以上に強く、こんな糞みたいなシステムを許容する奴は存在しまい。

 だから必然的に、俺は何度でも甦らせられる。

 さあ、また始めるか。育てる必要ない体がそこにあるんだ。

 そう思って、俺は目を開けた。 


 だがそれは、俺の勘違いであった。

 

「!?」


 目覚めたのは、見慣れた教会ではなかった。

 見慣れぬ場所、王族でも使っていそうな寝室。

 今までのふかふかが全て嘘に思えてくるほどに柔らかなベッドで、俺は寝ていた。豪勢というよりは風情があると言うべき、木目が綺麗なタンス。足元に広がるのは、暖かなクリーム色の絨毯。

 なんだ? 俺は、王族に招待でもされたのか? 意識を失った後、無意識に魔王を、倒したのか?

 起き上がり、かすかな頭痛を感じつつも、俺は窓辺へと向かう。

 曇り一つ無く、外の世界を綺麗に透す窓ガラス。

 そこから見えたのは——、曇り一つ無い青空。眼下に広がるのはエメラルドグリーンに輝く海。

 そこから広がる景色は、絶景だった。


 俺が何度死んでも守りたかった世界が——そこには広がっていた。


「気付いたか、勇者」


 何度死んでも倒さなければならない男が、背後から現れたが。


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