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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第二章
34/67

非情の収集家と憤りの焰 8

 人は、なんとなくが多い。

 その一つに、なんとなく汚れた物があれば綺麗にしたくなる。それと反対に、なんとな真っ白な物を汚したくなる。

 それを成し遂げた時、人は爽快感、達成感を得る。そして同時に、虚無感も。

 この『憤炎』は、それを煮詰めて濃くしたような魔法だ。


 今僕は、もの凄く死にたかった。


 成し遂げた事に対して、虚無感を感じている。

 なにやってんだろう、馬鹿みたいじゃないか、と。

 完全に熱が冷めていた。

 それでも、下火となろうとも、コレクターに対する復讐の炎は燃えていたが。





 屋敷の内部は電気の照明で照らされており、きめの細かい絨毯や濁りのないガラスから、地球から持ち込んだ物で改築したのだと解かった。だからと言って、靴を脱いで上がるつもりは無い。

 外の盛大な歓迎とは裏腹に、屋敷の内部は不気味なほど静まり返っていた。


「悪趣味な……」


 屋敷の一番奥に、いかにもな巨大な扉があった。僕は呟きながら、その扉を開ける。

 そこはダンスホールに近い広間だった。半球状の部屋で一面が窓ガラス。照明が無く、外の荒れた天気のせいでかなり暗いが、見えないほどではなかった。


「フィーっ!!」


 入ってすぐ、フィーが倒れているのが見えた。駆け寄ってその頬をぺちぺちと叩く。柔らかい。


「んっ……」


 と、すぐにフィーの瞼が動き、ゆっくりと開いた。

 そして、


「……眠い」


 またすぐ閉じた。

 …………。いや、無事なら良いんだけど。なんていうか、拍子抜けだ。

 薬でも盛られたのか?


「何、ここまで歩かせてしまいましてね。疲れているだけでしょう」


 と、僕の疑問に答える聞きなれぬ男の声がした。

 どうしてだか、こいつの声は耳にこびり付く。粘り着くような、嫌な声だ。

 僕はその男を知っている。振り向けば、モノクルを掛けた青年が冷笑を浮かべていた。丁度いいタイミングで稲光が部屋を照らす。


「ルミナス・レイフォード……」

「おや、私の事はご存知でしたか。『愛と情熱の戦士』さん。いいえ」


 そこでルミナスは一拍空け、


「魔王、マモル君」


 ハンドガンを僕に向け、勝ち誇った顔でルミナスは言った。

 バイオハザードなんか出てくるハンドガン。クリティカルは出やすいのだろうか。

 閑話休題。

 しかし、なんでバレたかな? 一応、僕の正体は隠していたつもりなんだけど。

 あっ、複数の魔法を使った時点でバレたか。魔法使いは、一つの魔法しか使えない。魔王を除いて。


「いかなる魔法使いといえど、頭を打ち抜かれては死にますよね? 勿論、魔王でも」

「そうですね……。魔法と言うのは、根本的に使用者の解釈ですが、例外無く思考して発動する物ですからね」


 銃で頭を撃たれれば、考える暇も無く絶命する。

 肉体的能力の低い僕ら魔法使いに取っては、銃ってのはかなり相性が悪い。それこそ、狙撃銃なんかは。

 けどさ。


「アンタが何と言おうと、お断りだ。僕は、アンタみたいな奴が大嫌いなんだよ」


 人の事を駒としか見なせない、それじゃただの王様だろ。

 僕は魔王なんでね、そこの考え方少し違うんだ。


「例えばアンタ、魔法も魔術も使えぬただの人間は殺していい、なんて思ってるんだろ? 更に言えば、魔法使いこそがこの世界を統べる者だ、なんてさ」

「……意外ですね。まさか、魔法使いは人間のために尽くすべきだと?」

「まさか。それも一つの生きる道だとは思うけどさ。最終的には自分のためさ。後味が悪くならないように、この人生を楽しめるように、幸せになれるように使うだけ。偶々、それが他人のためになっているだけだ」


 でも。


「他人じゃなくて、仲間のためなら使うかもな!」


 僕が声を荒げた瞬間、足下に銃弾が撃ち込まれた。

 けど、僕はひるまない。


「撃ってみろよ、コレクター。お前の大事な収集品なんだろ、僕は?」

「まさか、そう言えば私が撃たないとでも? 死体のあなたでも十分活用出来るんですよ? 『操り人形の針』って魔法具は、死体を操れるんですよ?」

「死体? おいおい、まさかその虚仮威(こけおど)しの銃で僕を殺せるとでも思ってるのか?」


 僕はルミナスをせせら笑い、断言する。


「魔王を舐めるなよ?」


「——っ!!」


 瞬間、ルミナスは引き金を引いた。

 僕の頭が吹っ飛ばされたように変形した。


 それはまるで、炎が風に吹かれたようなもので。

 すぐに元の形へと戻る。



「——で? 頭を吹っ飛ばしたから僕は死んだか?」

「ッ!?」


 驚くルミナスに、僕は冷笑を浮かべた。

 馬鹿だな、確かにレイなら死んだろうさ。

 だが、僕は魔王だ。

 僕の『怠惰』の魔法は、体感時間の操作。

 未来と現在——その狭間に干渉する魔法。

 起こる事象、起こっている現象——それらについて、僕は思考する時間が与えられる。

 僕は便宜上、この魔法を『語り部』なんて呼んでいる。

 起こっている現象に付いて解説し、時には起こる事象を預言できる。身体が痛みを感じていようとも、それを冷静に分析出来る魔法。

 体感時間を増やせば、それだけ考える時間も増える。

 なんなら、銃弾がどのような軌道を描いて僕の頭を吹き飛ばしたか、語ってもいいんだ。


 魔王はただの魔法使いじゃないんだよ。

 七つの属性全てを使えるから、魔王なんだ。

 

「魔法が『七つの大罪』でジャンル分けされているのは、この暴力的な魔法が罪に他ならないからだって知ってるよな?」


 僕は、『憤炎』を発動させる。

 理不尽をこれ以上無く理不尽に叩き潰せる魔法。


「分かりました……。こ、交渉しましょう!!」


 と。

 ルミナスは、策が効かないと知るや否や、土下座して見せた。

 その手のひら返しは、呆れるを通り越して驚嘆に値するよ。


「わ、私の魔法は召喚魔法。紙に物の名前を書けば、それを手元に召喚できます。地球の記憶がある君なら、これがどれほど価値があるかわかるでしょう!?」


 ルミナスは必死に、活路を見出そうと舌を動かす。

 このままでは僕に殺されると、必死に生き残る道を探している。


「復讐でしょう!? 知ってますよ、君が住んでいた村から追い出され、帝国に殺されそうになったのは! それなら現代兵器を使えばいい! 戦車でも潜水艦でも、戦闘機でもクラスター爆弾でも! 私が紙に書けば召喚できる! なんなら人工衛星だって、それの発射施設だってそうだ!」


 紙一枚でそれらが手に入ることが、どれほど貴重かなどと語る必要は無い。

 ぜひとも欲しい魔法だ。


「どうです! あなたなら解かるでしょう、私の魔法がどれほど便利か! 逆らいません、尽くしますから! どうか! 命だけはっ!!」

 

 地にひれ伏すルミナスに対して、僕は曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。



「仕方が無いな……」



 僕の復讐は、相手が死ぬほど後悔させることだ。

 こんな、生きたがっている人間を、僕はこの場で裁くことは出来ない。

 僕の呟きに、ルミナスの顔に光が差した。


 ああくそ、僕って奴はなんて——、



「お前さ、凄く勘違いしている」



 ——酷いんだろう。


 がしりと、僕はルミナスの顔を鷲掴みにした。

 え? と今にも言い出しそうな感じに、ぽかりとルミナスの口が開いている。


「お前はまるで、自分の魔法が唯一無二、お前でなければ使えないようなことを言ってるけど、それは大間違いなんだよ」



 かつて、レイが僕に言ったことがある。



 それは、一体どんなシーンだったか。

 ……そうだ、山賊の一人を捕まえていて、そのアジトの場所を吐かせたかったんだ。

 山賊は中々口を割らなくて、人質に危険があるから僕らは早く知りたくて——。

 山賊は口を割ってしまえば、自分が生かされてる意味を失うことを知っていたから、死にたくないから何も喋らなくて。ただ口が悪くて。

 それで僕は——。




「アンタ要らないよ」




 その山賊を殺したんだ。

 だって。




「召喚魔法、使えればお前は必要ないだろ?」



 ドッペルゲンガーって知ってる?

 最大の嫌味を込めて。




 僕はコレクター、ルミナス・レイフォードの顔でそう言った。




 アジトの場所、知っていれば生かしておく必要無いだろ?

 そう言って、僕は山賊を殺した。



 僕の複写魔法は、その記憶から能力、全てをコピーする。

 人格すらもコピーする。

 その人でしか知り得ない情報を言う事も、その人ならばこうするであろう行為も、全て僕がやってみせよう。

  


 だからレイは、そんな僕に言った。



『君の魔法は、人の存在理由を奪うんですよ』





 僕は言った。


「さよなら、コレクター。君の存在理由は——無い」

「——っ!!」



 そして、全てが動いた。



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