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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第二章
33/67

非情の収集家と憤りの焰 7

 炎に反応できたのは何十人といた召使いの内たったの三人、されど三人いた。

 他の召使いがその魔法具、もしくは魔術具、名のある武器もろとも炎に飲まれる中、超人的な反応で跳躍し、そのまま僕へと襲い掛かってくる。双子の剣士、弓使いだ。

 やはり、と無感情に襲い掛かってくる彼らを見る僕。僕はアイリとヒビキの情報で彼らを知っていた。



 バトルジャンキー、ヒビキの情報によると、『限りなく魔法に近い(リミットマジック)魔術』と勝手に呼んでいた冒険者、もしくは魔法具が行方不明となっていると言う。

 そして、今僕に襲い掛かってきている人物達がそうだった。


全く見分けがつかない、金髪ポニーテイルの双子の剣士。

ただ睨んでいるように見えて、物言いたげな視線で僕を見据えている。そこにあるのは、一種の希望か。はたまた憎悪か。



『暴風のリン』、『雷電のラン』。

 魔力量に限界が見えない、思うが侭に風と雷を操る双子の姉妹。その実力は折り紙付き、ランベルグ帝国が攻め滅ぼそうとした小国を、たった二人で防いだという伝説の持ち主。

その手に握られているのは、『疾風のレイピア』と『雷剣ジゴデイル』。共に、風や雷そのものが武器となったような魔法具。



 刺突が渦を巻き暴風となり、斬撃がジグザグの軌跡を描く雷撃となって僕を襲う。

 避けることは可能、だった。

 だったのだ。

 だが、動かそうとした体にずしりと重みが増し、耐え切れず膝を着く。


「やってくれるね……」


 見上げれば、男が僕を無感動に見下ろしていた。

 グレーの髪に、鋭い目つき。四十代であろう。堅いイメージが湧くカッコいいおじさん(・・・・)だ。レイのようにおっさん(・・・・)とは呼べない風格の漂う人物。



 『重圧のグライス』。

 こちらも、重力を思うがままに扱う弓使い。重力で相手を押さえつけ、ピンポイントにその頭を射抜く——暗殺者。動かない的ならば絶対に外さない、命中率百パーセントの凄腕。

 彼の手にあるのは、『白銀の霊弓』。ホーミング機能付きのレーザー光線と勘違いするような矢を放つ、こちらも魔法具。



 グライスが何の予備動作も無しに僕に重力をかけ、そしてその弓から矢を放った。一瞬で矢は光線となり、僕を消し飛ばさんばかりに飛来する。


 全く、リミットマジックとは、よく言ったものだと僕は感心した。

 これは確かに『限りなく魔法に近い魔術』だ。

 逆らうのが馬鹿らしくなるほどの力、属性で言えば『傲慢』だろう。

 すごいや、すごいな、すごいって。



 三つの攻撃が僕を直撃し、轟音が響き渡った。

 地面が爆発したかのように吹き飛ぶ。その衝撃で大きく地面が揺れるが、それが収まるのと同時に三人は地に降り立った。

雨風が強いので、すぐに土煙は収まり——で?






「こんなモノで本物の魔法を——この『憤炎』を止めようと?」






「「——がっ!?」」


 ゆらりと。

 警戒しながら僕に止めを刺しに来た双子の頭を鷲掴みにする。

 僕は無事だった。


「違うんですよ。決定的に違う」


 僕の呟きに、二人の顔に明確な愕然とした表情になり、恐怖が浮かんだのと。

 僕の体を二本の魔剣が貫いたのは、同時。




 僕は笑って、二人は笑えなかった。




 二つの剣は、確かに僕の心臓と内臓器官を貫いている。

 だが残念ながら、僕には痛覚ってもんが無い。正確に言えば、『怠惰』の魔法で痛覚の体感時間をゼロにしている。

 そして、『憤炎』は事象、概念などありとあらゆるものを消滅させることが出来る。



 僕が刺された——その事実すらも消滅していく。


 

「二人仲良くおいきなさい」


 轟! と炎が二人を飲み込み、僕は二人から手を離した。


 悲鳴は上がらなかった。


 どさりと力なく地に落ちた二人に一瞥もくれず、残ったグライスに視線を向ける。

 グライスが弓使いらしく、距離おいて狙撃しようと後ずさり——、


「っ!?」

 

 ——炎上した。


 残念。『憤炎』の発動範囲は僕の視界だ。

 僕に見える範囲にある全て、その消失権が僕にあるんだよ。

 炎に飲まれて倒れていくグライスには目をやらず、悪の根城に見える屋敷へと視線をやる。



「はははははっ!!」



 凄く気分がいい。こんなに笑えたのは久しぶりだ。

 ああ……、この高揚感が消えぬうちに、さっさと君を消しに行くとしよう。


 ふと見上げた空は、荒れた天気の夜らしく、どこまでも暗く黒いものだった。

 ただそれだけのことなのに、何故か笑えてしまう。仕方なくその笑みを手で隠して、僕は屋敷へと向かった。



   ーーーーーーーーーーーーーーー



「ああ……間違いない。あの炎、あのやり方——まさしくあの男だ」


 魔法使い。

 奴こそが、最強の魔法使いだろう。魔法の中の魔法を使う男。


 『風塵のリン』、『雷電のラン』の双子は、彼女達の両親に呪いの宝具を渡して、それを解呪する約束をしてなんとか手駒にした。涙ながらに私に縋りついて来た時には、顔がにやけるのを抑えるのに苦労したものだ。

 『重圧のグライス』は、私が暗殺を依頼すると言う形で手に入れた男だ。隷属の首輪を付けようにも隙が無く、仕方なく、一度しか効果を発揮しない代わりに時間を十秒だけ止める魔法具、『砂の消える砂時計』を使った。

 どちらも手間隙がかかった優秀な人材だが、所詮は魔術師か。

 魔法使いには勝てなかった。


 だが。


「はははははっ!!」


 笑える。笑えるぞ。

 奴はどうしようも無かった。弱みを握ろうにも、奴には過去の情報がまるで見つからなかった。弱みを作ろうにも、決まって奴は最高のタイミングで現れて見せた。


 だから仕方なく、殺すことに決めた。


 それが、どうした?

 奴よりずっと扱いやすそうな、奴の継承者がいたじゃないか。

 

 人質に釣られて出てきた時点で、もはや笑いが止まらない。

 こちらには、コレ(・・)もあるしな。



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