非情の収集家と憤りの焰 5
コレクター、ルミナス・レイフォード。ランベルグ帝国十貴族の一人。
レイフォード家は十貴族の中で最も権力が低く、財産も少ない家柄だ。能ある鷹は爪を隠す、とも言う。峠にある屋敷もそれほど広くなく、両親は病気で療養中。今、レイフォード家には彼とその召使いしか居ないと言う。
ただ、周辺住民によると彼の屋敷で働いているであろう、多くの人を見かけるとの情報。まるで一国の王であるかのような、召使いの数だとか。
そして、行ったきり帰ってこない人がいる。
そんなアイリの調査情報を聞きながら、僕は考えた。
人間収集、ね。
舐めやがって。
フィーからの手紙に書かれていた、『ちょっと行ってくる。あんた知り合い? なんかネコの人形にご執心』。
どう考えても、フィーの意志で行ったんじゃないだろう。
そして、僕を挑発しているような話じゃないか。
あのお守りは僕の最高傑作、はっきり言って魔術は愚か、『憤怒』属性の魔法でなければ突破出来ない代物だ。お守りと言う効果を最大限生かす、鉄壁に近い魔法具。コレクターの魔法は、どう考えても『強欲』、もしくは人間操作の『傲慢』か『色欲』だろう。一応、フィーの安全は保証出来る。
どういう訳か、あれがそういう魔法具だとバレて、コレクターに目をつけられたようだが。いやはや、それはどうしようもない。
「私も行きます」
身支度もとい襲撃準備をしていると、そっとアイリが寄り添って来た。
いつぞや見た黒のローブを身に纏い、その目にはうっすらと怒りと憎しみに似た感情が見えた。
そう言えば、アイリは……。
「彼は、私がどうにかしたいんです」
歯を強く噛み締める音が聞こえた。
アイリがここまで露骨に感情を表す事は珍しい。それほどまでに、ルミナスに対して怒りを抱いていると言う事か。何をされたのかは聞かない。聞きたくもない。
だけど。
僕はアイリに睡眠薬をもっていた。
ルミナスの屋敷に向かう最中、ふらふらとしたアイリを抱きかかえ、掃除して住めるようになった研究所に寝かせた。
「あう……、薬、……盛りましたね?」
「……ごめん。巻き込みたくないんだ」
本音を言えば、迷惑なんだよ。いや、見せたくないってのか。
「約束……です。ちゃんと、戻って来て……くださいよ?」
「ああ、約束する」
こてんと寝てしまったアイリをしばらく見やり、寝顔可愛いな、と思わず撫でてしまってから僕は研究所を出た。
その時、僕の顔に張り付いていた表情は——笑み。
僕はさ、こういう愚かしい行為に対しては、死にたくなる程後悔させるのが、礼儀だと思ってるんだ。
コレクター、お前の話はアイリの情報以外にもたっぷりと聞かせてもらっている。
例えば、アイカシア国の前身であるマクシアの宝剣を我が物にしようと、内乱を起こさせたとか。結果、それが原因でマクシアは滅び、アイカシア国には帝国との負の部分の関係と言うしこりが残った。
例えば、緑豊かな国、ウィンドル王国の地下に埋まる巨大な魔石を奪ったとか。魔石が強力な紫外線から守っていたことで豊かであった国土は、草木は生気を失い泉は涸れた。ウィンドル王国はあやうく滅亡する所だった。そして、ミリア姫は皮膚ガンになった。僕が新たな同様な魔石を置かなければ、ウィンドル王国は人が住めぬ地域なっただろう。
魔法は、そういう使い方をするための物じゃない。
お前の魔法は、ただの『罪』だ。
丁度良い。
これで切って落とそうじゃないか。
僕の復讐の火蓋を。