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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第二章
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非情の収集家と憤りの焰 4

 この世界は素晴らしい。

 魔術、獣人、エルフ——そして、魔法。

 どれもこれも、地球にはなかったものだ。

 皆、その価値に気付いていない。この世界がどれほど素晴らしいのか、その価値に気付いていない。

 だが、あえて私はそれを語るまい。

 すべて、私のものだ。誰にも渡さない。独り占めだ。

 地球の技術も捨てがたいが、魔術や魔法に比べればあんなもの必要ない。どうにもこの世界の人間には珍しく映るようだがな。



 私の魔法は、『強欲』属性の召喚魔法。

『一、紙に書かれている名称のものを目前に召喚することが出来る。

 二、生物は不可能である。

 三、名称が総称であった場合、召喚されるものはランダムとなる。

 四、所有権のある物は不可能である』



 この法則さえ守れば、何でも召喚、もとい手に入れることができる。

 生物を召喚できないため、どこぞの召喚士よろしく、魔獣を使って戦うことは出来ない。例え可能であったとしても、召喚した魔物に喰われてしまう気がするので、それは別にいい。

 ただ、所有権。これが厄介だ。これさえなければ、名のある宝具をすべて手に入れることが出来ると言うのに。

 まあ、それでも故人の物であり、誰の手にも渡っていないのであれば、私は手に入れることが出来るが。おかげで、国宝として飾られている類の宝具は色々と手に入ったし、昔話に出てくるような忘れられた伝説級の武器も私の手の内にある。わざわざ隠された洞窟まで取りに行く必要などなく、紙に書けばそれで手に入るのだ。

 世の探索者諸君には申し訳ないことをしたと思っている。何せ、私は自宅で紙とペン一本でその成果を奪っているのだから。


 私は全てが欲しい。私には、それを手に入れるだけの力もある。

 私は魔術が使えない。私はこの魔法しか使えない。私は化物じみたステータスもない。

 だから、私は欲する。

 私の代わりに、それらを受け持つ人間が。


 さて、今日は魔術師の研究発表。何か良い人材は要るかな?



―――――――――――――



「よし、準備万端。行って来るから、留守番宜しく」

「……心配ですね。僕もついて行きましょうか? あっ、別に保護者としてではないですよ?」

「うっさい馬鹿!」


 かぁっと顔を怒りで真っ赤に染め、フィーは地響きでも立てるような勢いで出て行った。

 ちなみに研究成果は、風のマナで火の魔術が消せるという発見だった。……まあ、許容範囲。それは以前僕が見せなかったか? まあ、証明できるのだから良いか。


「……さっきのはまずいですよ」


 デリカシーが無い僕をジト目でたしなめるアイリ。

 したくてしている訳じゃないんだけどさ。


「うん、さすがに僕もまずいと思った。……けど、最悪の予防線くらいは張っておきたいんだ」

「何かあるんですか?」

「……何となく、嫌な予感がしてるんだよ。ヒビキから話を聞いたときから」

「……」


 まあ、大丈夫なはずだ。フィーは優秀だし、お守りも渡してあるし。



 そして、フィーは帰ってこなかった。

 


―――――――――――――



 やはり、この世界は素晴らしい。

 けれど、どうにもこの世界の住人はそれに気付けていないようだ。

 私は今、ランベルグ帝国首都にある、ギリア城で魔術師達の研究成果を見させてもらっている。だが、平凡だ。

平凡な魔術、それこそ科学の延長線上にも満たないものばかりだ。

プラズマに驚きの声をあげる他の貴族にうんざりしながら、その成果発表を見ていた。その程度のものなら、私が召喚した現代の機器で代用できる。マナという未知の元素を用いておきながら、その特性をまるで生かせていない。

 魔法具、『霊視の片眼鏡(スカウトモノクル)』を通して見ているが、あまり優秀な人材もいない。魔力を数値化し、魔術や魔法使い、魔法具の詳細を見せてくれる魔法具。名称どおり、スカウトの役にしか立たない物だが、そこそこ便利だ。

 今回も収穫なしか、と視線を泳がせた時だった。

 不意に、異様なものが視界を過ぎった。


「これは……」


 モノクルの視界を埋め尽くさんばかりの文字の羅列。魔法の詳細だろうが、なんだこの量は!? 詳細の量が多すぎて、魔法具本体が見えない。この量、一つの魔法じゃない。複数の魔法が掛けられた魔法具かっ!?

 複数の魔法……魔法使いの合作!?

 私はモノクルを外し、肉眼でその魔法具と、それを持つ人物を見た。



―――――――――――――



 研究成果は高評価を得られた。

 何せ、相手が火の魔術を使っているときに、風の魔術を使用するのはタブーとされていたのだ。それを覆す、魔術師の戦いを揺るがす大きな成果。高評価は確信していた。

 前に会ったあの黒尽くめには感謝せねばなるまい。何せ、最初にこれをやってのけたのは奴なのだから。あたしはそれを真似ただけ。

 ……あと、あの失礼なおっさんにも。

 研究資金も貰えたし、さっさと帰ろうかな。そんであのおっさんを殴り倒そう。どうにも、

貴族って言うのは好きになれないのよね。一緒にいてストレスが溜まる。

 よし、じゃあ帰っておっさんを殴ってストレス発散しよう。


「フィオナ君と言ったね。素晴らしい発表だったよ」

「えっと、ありがとう……ございます」


 と、何故かおっさんを髣髴させる笑みを浮かべた男が話し掛けてきた。年齢はずっと若いのに、どうしてだろう。


「ああ、別に私は貴族じゃないからね。砕けた話し方で良いよ」

「あっそう。なら、そうさせてもらうわ」


 一瞬で砕けるあたしの物言いに苦笑を浮かべる男。あれ? もしかしてさっきのは冗談で、貴族? まあ、本人がああ言ってるから別にいいか。


「風の魔術ではなく、風のマナか。素晴らしい発見だよ」

「ええ。風が吹くことで火は大きくなるのが当たり前だけど、風のマナは風じゃないって気付けたから」


 男はうんうんと、まるでそれを既に知っていた(・・・・・・・)かのように頷く。

 何こいつ、なんか……嫌だ。


「ところで、君の腰についてるその人形はどうしたんだ?」

「ふえ? こ、これ?」


 と、唐突に男はローブの腰の辺りに付けている人形を指差した。

 これは、おっさんーーレイにもらった猫の人形。お守りって言ってたっけ。


「知り合いにもらった物よ。手作りって言ってた」

「て、手作りですか?」


 手作りと言われ、目を丸くする男。驚くのも無理は無い。何せこの人形、縫い目が恐ろしいほど綺麗なのだ。伊達に『Gランクの天才』とは呼ばれてないな、と思ったものだ。


「そ、そうですか。ちなみに、それを作った人の名前は?」

「名前? 『Gランクの天才』って呼ばれてる、レイっておっさんよ?」


 レイの名前を出した瞬間、急に男の表情が変わった。

 それは、驚愕と言うよりも、恐怖に近いもの。


「レ、レイ!? や、奴か!? いや、ありえない、そんな馬鹿な……」

「何? あんた、あのおっさんと知り合いなの?」

「知り合い? ええ、知っていますよ。知っていますとも。君も彼を知っているようですが、私もですよ。あの糞むかつく野郎のことなら何でもね」



 その時だ。



 男の笑みに、ぞわぞわと背筋を虫が張うような感覚を覚えたのは。

 その笑みは、一言で言えば、邪悪。

 逃げ出したい衝動に駆られたあたしに、男は言った。


「フィオナ君、少しお時間よろしいですか? っと、そう言えば名乗っていませんでしたね。私の名前は、ルミナス・レイフォード。ランベルグ帝国、十貴族の一人です」

「ッ——!!」


 あたしは貴族が嫌いだ。と言うよりも、強制させられるのが嫌いだ。

 だけど、あたしは貴族に逆らえない。だって、養って貰ってる側だから。


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