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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第二章
28/67

非情の収集家と憤りの焰 2

9/25日、二章を変更致しましたので、プロローグ1からお読み下さい。

また、序章のプロローグも同日、変更をしております。

 ランベルグ帝国。

 世界で唯一、魔法を行使する国。その使用は暗部のみだが、いつ魔法が表に出て来ても可笑しくはない。だが、今の所そういう話はないようだ。

 ランベルグ帝国は善くも悪くも、実力主義。

 こと実力という観点においては、魔法はあまり役に立たないと囚われているようで、今はまだ魔術の発展に力を注いでいる。そのためだろう。


「ふぇ? な、何でレイがここにいるの?」

「……たまたま寄っただけなんですが、何で顔を輝かせてるんですか?」

「っ!? そ、そんな訳ないでしょ!!」


 僕はコレクターの情報収集のために訪れた首都で、フィーと再会した。

 というよりも、僕が用事があってフィーの元を訪れたのだが……。


「ちょうど良かった! ちょっと手伝いなさい!」


 何故か、フィーに用事があった。




 首都の外れにある、白い半球の建物。それがフィーの家兼研究所だ。天井がガラス張りで、夜に星空が眺める代わりに暴風雨の時は怖い造り。

 僕としては、戦争が起きるかもしれないからランベルグ帝国以外に、リースの居るアイカシア国にでも移住してくれないかな〜、と遠回しに言うつもりだったのだが……。


「成果発表?」

「そう。魔術師は税金を免除される代わりに、年に一度研究成果を発表しないとダメなの。それでーー」

「わかりました、留守番ですね」

「そうそうーーって、そうじゃないわよ! ……それも頼めるなら頼みたいけど」


 留守番を断り、出かけている間に泥棒にでも入って、治安悪いしこれを機にアイカシア国にでも移り住んだらどう? と提案しても良いが……。

 止めだ。僕の用件は放置しよう。

 スパイ、というよりは監視者が欲しい所だから丁度良い。

 ここはフィーに自由にしていてもらおう。


「留守番の件は、掃除を条件に受け付けますよ」

「うっ……、やっぱりちょっと汚い?」


 外見はペンキ塗り立てと言う訳ではないのだが、真っ白で綺麗な建物だが、この建物、内部はフィーの言い方をすればちょっと汚い。丁寧に言えば少々、悪く言えばもの凄く散らかっている。

 足の踏み場が無い——というのを許容範囲としても、これは許容範囲外。

 どうみても壊れた魔術具——魔術の理論を用いた機械——が山のように積み上げられている。うかつに足を踏み入れよう物なら、その部品が足に刺さったりしそうだ。山に手をつけば崩れそう、ならまだしも、魔術具が勝手に動き出しそうで恐ろしい。

 ゴミ屋敷ならぬ、危険物廃棄屋敷のようだ。


「これがちょっと……ですか。フィーはお嫁さんをもらうのに苦労しそうですね」

「私がもらうのはお婿さんじゃ!」


 顔を真っ赤にして火でも吐きそうな勢いで怒鳴るフィーだが、ひょっとするとひょっとするかもしれないと本人も思っているようで、あうううなどと呻いている。


「だって……その、もったいないじゃない」


 その精神は評価しよう。

 ただな? こうやって放置しておく方がもったいないだろ。使うなら使う、使えないなら分解して廃棄しよう。フィーの作り掛けか、廃棄されていた物かは知らないが、このままじゃ僕が戦争を吹っかける前にここは危ない。


「何、悪いようにはしませんよ。解体して使える部品は取っておきますから。それとも、僕が直しておきましょうか?」

「直すって……そんな事も出来るの?」


 僕はへこへこと頭を下げた。

 なんとなく……うかつにフィーの前で胸を張りたくないのだ。


「すいません〜、こんなおっさんでも優秀な物ですから〜」

「そ、そうね。凄いわね! 『Gランクの天才』は何でも出来るのね!」


 やばい、なんか怒っている。

 話を逸らそう。


「まあ、魔術具の不調を訴える方は結構多いですから。魔術師の数も少ないですし、結構やるんですよ。魔術師は基本的に引き籠ってますし」


 魔術具とは、魔術機関(刻印とか魔術陣)を内部に搭載した機械。そこら辺のマナを取り込んで魔術を発動し、日常生活を快適にするーー地球で言う所の電化製品に似た物だ。ただし、魔力は自分で供給しなければならないので、魔術師専用の魔術簡略化アイテムといった感じだろう。魔術師が優遇される訳である。

 ちなみに、魔法具は魔力が無くても使用可能である。更に言うなら、魔石があれば魔術具も誰にでも使える。ただし、開発する魔術師が自らの地位を落としたくないので、そんなものは作られていない。独占だね。


「で、本題は何ですか? 聞くだけ聞きますよ」

「じ、実はね? 成果報告のアイディアが欲しいな〜って」

「お断りします」


 踵を返す僕の袖を引っ張るフィー。相変わらず、君は僕の袖が大好きだね。もう慣れたよ。つんのめるのに。


「ちょっと薄情じゃない!? 『フィーの頼みなら仕方ありませんね、一肌脱ぎましょう』……とはいかない訳?」

「むしろフィーが一肌と言わず、全部脱いでくださいよ。それでしたら僕は満足です。お願い通りーー帰ります」

「帰るの!? 手伝ってくれないの?」


 何故か顔を赤らめながら服に手をかけたフィーを見て、急遽言葉を変える。何だろう、僕は後少しでとんでもない過ちを犯す所だったような気がする。


「フィーの成果でしょう? 僕が提供すれば、僕の成果じゃないですか」

「それはそうだけど…… 」


 うう、と微かに目に涙を溜めるフィー。

 切羽詰まってるな〜、などと他人事の僕。

 事実、フィーは暴挙に出た。


「……泣くわよ?」

「泣いたって教えませんよ」


 内心、泣かれたらどうしようかと焦っているが、それを表情に出さない。

 プライドがあるから、泣かないと思うけど。


「……じゃあ泣く」

「どうぞご自由に。僕には関係ありませんから」


 そう言い切った僕をフィーは上目遣いで睨んで、少し俯いて考えるようにする。

 そして、羞恥心でぷるぷると肩を振るわせ、それに伴って顔を真っ赤にして、涙目で僕を一目見て。

 上目遣いでフィーは、





「……に、にゃー」






 鳴いた。


 ごふっ。

 フィー……。それは反則ってものだよ……。

 いつもは警戒心びんびんなのに、自分の興味の対象には全てを曝け出す所とか、凄く子猫っぽいと思ってたよ! 小柄で丸い顔とか、子猫みたいで可愛いとか思ってたさ! だからって、それは反則だ!

 ……やばい、なんかフィーの頭にぼんやりとネコ耳が見えて来た。やばい、やばすぎる。もの凄く似合ってる! 超可愛い!

 ——っ!! いや、何言ってるんだ。やばいのは僕の頭じゃないかよ。


 という思考が、瞬きの間になされたのはここだけの話である。

 僕は完全敗北した。悔しいので、フィーの頭を撫で回す。髪をくしゃくしゃにしてやった。


「——んっ」


 なのに……、なんで照れくさそうに頬を染めてるんだよ! 何で嬉しそうなんだよ! 嫌がれよ! 僕の精神が死ぬからこれ以上はやめて!


 ネコの耳が見えた時点で、僕の精神は死んでいたんじゃないだろうか?


この28話を28日にやりたいがために、ちょっとだけ更新日時を調整していたりして。

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