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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第二章
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非情の収集家と憤りの焰 1

「本当ですか!?」


 復讐の下準備は、いよいよ大詰めと言った所だった。 

 復讐する事で戦争が起こるかもしれない。それを危惧して長々と策を練って、色々と作って来た訳だが、それの完成報告が僕の元に届いた。


「嘘を言っても仕方がないだろう。本当さ。彼女の方も大丈夫みたいだ」

「ああ、二人に任せて良かった。あれは僕の奇策の中の奇策だから」

「奇策と言うか、あれは一種のロマンだろ?」


 くすりと笑みを浮かべるのは、切れ長の目を持つ一人の青年。

 紺色の髪は、まるで深い海の様。地球で言うスーツのような服に身を包んでおり、レイが詐欺師なら、彼は新入社員だろうか。

 精悍な顔立ちで、所謂イケメンだ。だが残念な事に、少々危険思考の持ち主である。バトルジャンキー、強者を見れば戦いたくてウズウズするタイプの人間なのだ。強いのだから達が悪い。魔術師にして魔法使い、さらに達人クラスの格闘家。

 そして、僕やレイと同じ前世——地球の記憶持ち。

 青年、ヒビキという男は、そういう人間だ。


「……それより、彼女は一体誰だ?」

「ああ……、やっぱり気になるよな」


 と、ヒビキが指差す彼女に、僕は苦笑いを浮かべる。

 レイの姿ではなく、元の僕に戻ったのが悪かったのかな。


「…………」


 無言で僕にしがみついているアイリが居た。

 少し気になるのが、ヒビキから隠れるように、僕の後ろに隠れている事だ。


「アイリって言うんだ。えっと……、秘書みたいな役割かな」

「……」


 僕が喋って、アイリは無言だった。

 更に、ヒビキは酷く訝しげに言う。


「アイリ……ね。ふうん。『氷霜のアイリ』を秘書扱いとは、さすがは魔王だ」

「——ッ」


 びくり、と背後でアイリが震えるのが分かった。

 それよりも、『氷霜のアイリ』などという二つ名に僕はフリーズしていた。


「あ~、何それ?」

「やっぱり知らなかったか。『Gランクの天才』様は、二つ名に興味がないからな」


 その通りである。

 実際、『Gランクの天才』などという二つ名は、彼に教えてもらって初めて知ったのだから。あのときの恥ずかしさは語ろうにも語れない。アイリも、今きっともの凄く恥ずかしいんだろう。恥ずかしい二つ名がバレてしまって。

 ……そんな訳ないが。


「若干十二歳にしてBランクに上り詰めた天才さ。現在はAランクだったかな。まるで君と真逆の存在だ。もっとも、一年程前から消息を断っていたけどね。何をしていたんだ?」

「……あなたには関係のない話です」

「関係ない……ね。良いけどさ」


 むっとした表情でアイリが一歩前に出て、ヒビキと視線を交わす。

 二人がどこか険悪なムードを醸し出している中、僕はぼんやりと考えをまとめていた。


 要するに……、僕は途方もない勘違いをしていたようだ。

 アイリの強さは、隷属の首輪で強制的に作り上げられた物ではなく、元々の力だったと言う話で。あの事件の黒幕が、アイリとラングを雇うのに精一杯だったというのは、Aランクの冒険者を暗殺者に仕立て上げたのだから当然であった訳だ。

 依存しなきゃ生きれないってのはよく分からないが、とにかく暗殺者として育てられたのが僕の勝手な妄想であって良かった。

 十二歳でBランクにまで上り詰めた理由は、もっと暗いのかもしれないが。

 というか、そんな有名人を迷惑と思った僕は……。


「まあいい。それはそうと、一つ情報を上げよう」


 しばしアイリと睨み合っていたヒビキは、意味深に小さく笑みを浮かべた。


「ランベルグ帝国に、コレクターと呼ばれる魔法使いがいる。国の辺境に済んでいる魔法使いなんだが、彼の噂はそれは酷い物でね」


 コレクター、その単語にアイリが再び震える。

 ヒビキはちらりと一度アイリを見やり、話を続ける。


「骨董品や魔法具、武器や防具など多岐にわたって収集しているんだが、その一つにーー」

「——人間の採集」


 と、ヒビキが全てを語る前に、アイリが口を開いた。

 アイリの身体が小刻みに震えていた。

 全てを語らずも、全てが伝わって来る。

 言葉にしなくちゃ伝わらないと言っても、言葉にしなくても伝わる物もあるのだ。

 恐怖。

 今のアイリの中で渦巻いている感情は、それ一つだろう。身体がぶるぶると震え、顔が青い。

 そんなアイリを、僕は見ていられなかった。


「アイリは下がって。この話は僕とヒビキだけで——」

「いえ。私も無関係ではないので、ご一緒します」

「へえ、本当に秘書みたいだね。——それじゃあ、話を続けるよ?」


 僕とアイリのそんな様子に茶々を入れ、ヒビキが話を進める。


「コレクターはランベルグ帝国の上層部と繋がりを持っているようで、その収集品を売っている。その中で、たまたま手元に来た物があるんだが、これを見てほしい」


 そう言って、自分の着ているスーツを指差すヒビキ。

 え?


「これなんだが、どう思う?」

「「…………」」


 ヒビキさーん。

 そういう証拠品、着ちゃダメでしょ。

 いや、彼が言いたいのはそういう事ではないのだろうけど。


「…………」

「…………。手の込んだ作りの服です。縫い目が統一されていて、とても人間業には思えません」


 何も言わない僕に変わって、アイリがコメントしてくれた。さすがは僕の秘書。

 というよりも、この空気に耐えられなかったのではないだろうか。


「だろうね。君ならそういう表現だろう」

「まさか……」


 ヒビキの言い方で、僕はピンと来た。


「地球のスーツそのもの?」

「正解」

「……チキュウ?」


 僕ら二人は事態を飲み込めたが、アイリは事の重大さに気付いていない。

 気付いた僕は、鞄から以前アイリから没収した拳銃を取り出す。

 それはまぎれも無く、あまりにも完成された実銃。

 ヒビキはその銃を見て、確信を持って答えを導き出した。



「コレクターは、地球の物をこちらの世界に召還するーーそんな魔法を使える」



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