プロローグ3
「君のその魔法は、人の存在理由を奪うんです」
おっさん、レイが——死んだ。
その死に様は、すごく呆気ない物だった。
ノーランドの王子とマクシアの王女を助け。
ウィンドルのお姫様の病気を治し。
魔王を助けた一人の男の死としては、あまりにも似つかわしくない物だった。
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「兄の敵! 死ね!」
不意に、ナイフを持って突っ込んで来る少女。
どうしようかと僕がレイの顔を伺うと、彼は不気味なくらい優しげな笑みを浮かべていた。
そして。
「あのドレス、僕の弟子の結婚祝いに上げてください」
そう言って、僕に笑顔を見せて。
レイの心臓に、深々とナイフが突き刺さった。
「ごふっ……」
口から、胸から……彼がいつもこんな時に出していた炎のように、勢いよく血が零れ出した。ふらふらと、レイを刺した少女は後ずさりし、そして逃げ出した。レイも膝をつき、そして地に伏せる。じわじわと赤い血が、大地に染み渡って行く。
僕は、呆気にとられて何も出来なかった。
……何でだよ?
アンタ、いつも『理不尽だ』って、何でも消滅させてただろ? 痛みも、傷も。……なんで、消さないんだよ。
アンタの魔法は、『憤怒』。
『理不尽をそれ以上の理不尽で消す』……そんな魔法じゃないかよ。
僕がどんな顔をしていたのかは、分からない。
ただ、レイが僕に笑って言った。
「……敵討ちは……理不尽じゃないでしょう? 愛の成せる業ですよ」
事切れたレイは何も語らない。
だから僕は、仮想人格に問うた。
何故、死にたかったのか。
死んでから初めて、僕はレイの事を何も解っていなかったんだと知った。