表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第一章
23/67

エキストラ

「ねえ、アオイはあいつのどこが好きになったの?」


 フィーがアオイにそう尋ねたのが、始まりだった。

 どうやら、以前もそんな話をしたらしい。


「一途な所……いえ、一途だったところでしょうか」

「だった……って、今は一途じゃないってこと?」

「そうみたいですね。何でも、一人の女の子を愛し続けるのは馬鹿みたいだ、だそうで」

「……何それ。まるで昔、誰か一人を愛し続けたような台詞じゃない。信じられない」


 呆れたような、驚いたような表情をフィーが浮かべている。

 ……確かに、変化しているときの彼は、凄く胡散臭い。


「…………」


 だから私はいつも通り何も言わなかった。

 そう言えば、私は結局あの人の事を何も知らない。

 依存しているけど、何も知らない。

 ……何故か分からないが、彼と一緒に居ると心地良い。

 だから、離れたくない。


「昔、彼が付き合っていたときの話、聞きましたか?」

「付き合ってた!? あいつ、誰かと付き合ってた事あるの!?」

「本当ですか! 聞かせてくださいっ!」

「…………!?」


 信じられなかった。

 あの人が、昔誰かと付き合っていた? なのに私があんなに誘惑しても何もしてくれないの? ……私はそんなに魅力がないのかな。

 フィーはあっけらかんとしていて、リースが妙に食いついていた。


「あっ、幼なじみでしたっけ。でも、彼は恋していたみたいですけど」

「レイさんにもそういう事あったんですね……。意外です」


 意外。

 私と一緒にいるとき、彼はそう言った感情はあまり見せない。恋慕ではなく、ただ人の温もりが恋しいような、そんな感じだ。

 ……なんか、少し悔しい。


「彼は凄く好きだったみたいで、その人のためなら死んでも良いと誓えたそうなんです」

「……あのおっさんがねぇ」


 フィーはさっきから驚きっぱなしだ。

 ……羨ましい。私も、そこまで誰かに愛されてみたい。奴隷のように扱われて来たから、それは……凄く羨ましい。


「だから彼はその人がどんな事を頼んでも、文句も言わず笑顔でこなしてみせたそうなんです」

「……凄いですね」

「ただ、あまりにも自分の意見を出さないから、その人に言われたらしいです。『あなたは自分の意見がないの?』と」


 ……もしかして、私もそうなのかな? いや、そうだったのか。

 だから彼は、私に嫌な事は嫌と言えるようになってと言った。あと、好きな事を好きと言えるように、と。

 私は……結構わがままな事を言っている。

 彼がおっさんの姿をしているときは、なんだか嫌で近づかない。その時間が長いから、彼が本当の姿のときは精一杯甘えている。

 ……私に依存してほしい。私から離れて行ってほしくない。


「ただ、彼はこう答えたらしいです。『いつか僕の凄い我が儘を聞いてほしいから、今は貸しを作ってるんだ』と」

「凄い我が儘? ……変な性癖でもあるんでしょうか?」


 リースがそんな事を言った。

 ……え。そっか。そうだったのか。

 それなら、確かに彼が私に興味を持たないのも分かる。……言ってくれれば応えるのに。


「いくら何でも、それはないでしょ……。それで、おっさんはなんて言ったの?」

「いえ、その我が儘は言えなかったみたいなんですよね。その人が別の人を好きになったから、と。それと、最終的に死別したと」

「「「…………」」」


 きっと、あの人は最後までその人に恋をしていたのだろう。

 本当に……羨ましい。

 私も、彼にそこまで思われたい。私は彼に依存しているけど、彼はどうなんだろう? …… 離れて行っちゃわないかな?


「ただ、なんと言いたかったのかは、聞いています」

「……へえ、なんて?」

「教えてくれませんか?」

「…………ほしい」


 私は、その言葉を言われたい。

 だから、どんな言葉か聞いておきたい。

 アオイは、興味津々の私達を一瞥して、謳うように言った。



『あなた一人を愛していいですか?』


 

 それは、とてもロマンチックなお願い。

 

「私は、そこまで情熱的に愛せる心を持ったあの人に、愛されたいんです」


 そう言って、アオイは笑った。リースやフィーが口元に手を当てて、頬を赤く染めている。

 私は……少しだけ頬が赤かった気がする。

 そして、私を見てアオイは言う。


「今は仮面を被って本心を隠してますが、きっとこの想いは、その仮面を通しても伝わると思ってます」


 ……そっか。

 彼はどんな姿をしていても、彼なんだ。

 なら、私の想いが伝わりやすいように、もっと側にいよう。


 


 やはり、あの人は優しい。

 私があまりあの姿で近寄られるのが嫌いなのを知っていて、私に触れようとしたとき、少しだけ躊躇した。

 でも、私が困っているのも見過ごせないから、そっと私の肩に手を置いてくれた。


 私は、この人に愛してほしい。


 だから——。


「そうです。私にはこの人がいますから」


 そう言って、私は彼に強く抱きついた。いつものように、この胸の熱さが伝わるように、ぎゅっと抱きしめる。

 けど、私が本当に言いたい言葉は、違うかな。

 多分、本当に私が言いたいのは——。


 私は、この人——マモルがいいんです。

 

 優しい、私の王様。

 あなたは私を愛してくれますか?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ