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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第一章
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プロローグ

 僕がニルベリア皇国の巫女、アオイと出会ったのは、一人の呪いに掛かった人を助けるためだった。


 ニルベリア皇国は、日本のような国だ。違いはいくつかあれど、その文化は日本にかなり近い。島国であり、天皇がいて、神社があって、米や味噌がある。僕に取っては心のふるさとと言っても良い。

 違いと言えば、神社にやけに権力があると言う事か。神様の力を借りて怪我や呪いと言ったものを治療する神聖術を使えるからだ。実際の所、あれは魔法に近いと僕は考えている。怪我は魔術で治す事は可能だが、魔法によって付けられた呪いは、魔術では治す事は不可能だからだ。魔法であるが弾圧されない神聖術を見ていると、物は言い様だと思い知ったものだ。


 閑話休題。


 あれは、僕が癒しを求めてニルベリア皇国のど田舎に行ったときの話だ。


 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 呪い。それは、魔法によって付けられた特殊な傷。

 それを治すには神聖術、もしくは希少ながら存在する薬でしか不可能だ。……表向きには。魔法には魔法で対抗する事ができ、その傷である呪いも消せる事が出来る魔法があるからだ。


 田園風景が広がる田舎道を僕は歩いていた。特に道を選ぶわけでもなく、道が続く限り。少しばかり、考え事をしていたのだ。


 ハンバーガーが食べたい、と。


 このニルベリア皇国に来てから一ヶ月程立ったが、ずっと和食。しばらくの間は、懐かしいと思って食が進んだが、そろそろ刺激が欲しくなって来ていた。

 そろそろ別の国に行くか、じゃあどこの国にするか……などと考えていたのだ。田園風景が広がる田舎道を歩いていた、はずだった。


 結果、道に迷った。


 辺り一面、森。前と後ろに道こそあれど、どっちから来たのか方向感覚を失っていた。完全に迷子だった。

 やべえよ、やべえ。見た目おっさんのくせに道に迷うとか、恥ずかしくて死にそう。はははは、どうにかなるさ、と仮想人格βは言っているが、いやそれどころじゃない。このおっさん見た目からじゃ、むしろ納得されそうだけど。


「……い……ろ……」


 と、森の奥から人の話し声が聞こえて来た。

 助かった!

 どうして森の奥からなのかは知らないが、そんな事考えている暇はない。

 恥ずかしいのでいつもの胡散臭いおっさんスマイルを浮かべ、僕はさささっと近づき声をかける。


「すいません~、道に迷ったんです……が……」


 僕の声はどんどん尻すぼみ。タイミングが悪いよ……。


 女の子を担いだ山賊さん達だった。


「あ? テメエ、何者だ!」


 白いローブを着て手かせを掛けられた女の子。それを担いだリーダーっぽそうな男が文句を言って来た。

 迷子です、とは言えなかった。もし言ったとしても、信じてもらえそうにない。おっさんじゃあ、迷子とは言えないし。

 ……よし、仮想人格βに任せよう。


「ご覧の通りただの旅人だよ」

「んな訳あるか! テメエみたいな胡散臭い奴の言う事が信じられるか!」


 ふっ、と笑みを見せる僕に、ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる山賊達。

 信じてもらえないので、次の嘘を吐く。真実が一番信じられなさそうな気がするのは何故だろう。


「姫、あなたの騎士が助けに来ましたよ!」

「手ぶらの騎士がどこにいるか!」

「よしよし、お前等よくやった。後は任せろ。その女を置いて下がってな」

「へいお頭——って、巫山戯てんじゃねーぞ、おっさん!」


 遂にノリの良かった山賊さん達も、腰にあったナイフを構える。

 どうやら何一つ信じてくれなさそうだ。

 というか、別に僕があの女の子を助ける必要はないような。そんな義務はない。そうだ、わざわざそんな危険を冒す必要なんてないじゃないか。

 と言う訳で、


「じゃ、後悔するんだね」


 僕は踵を返して、ゆっくりと歩き出した。

 後ろで山賊達が呆然としているが、そんなの関係ない。女の子の安否も関係ない。

 


「て、テメエ! 待ちやがれ!」


 と、一人の山賊が追いかけて来た。


「お見送りですか? ありがたいですねぇ」

「巫山戯てんのかこの野郎! ……いや、そうだ。お見送りだ」


 突っ込んで来た男だったが、不意にニヤリと笑みを浮かべた。そして、ナイフを構える。


「テメエが地獄へ行くお見送りだよ!」


 見られて生きて返せるか馬鹿が! と、男が襲いかかってきた。

 馬鹿だな~、僕相手に一人で来るとか——手間が省けたよ。



「兄貴、始末してきやしたぜ!」

「良くやっ——へぶ!?」

「兄貴!?」


 僕は追って来た山賊に化け、兄貴に足払い。前にぶっ倒れる兄貴から女の子を奪い取り担ぎ上げた。


「テメエ、裏切ったのか!」


 何故だか裏切り疑惑を持たれ、攻撃態勢に入られた。

 おやおや、こいつはまだ僕があの山賊だと思ってるのか。

 これで三人の関係が崩れては可哀想なので、僕はおっさんの姿へ戻る。


「いっ!? て、テメエ、魔法使いだったのか!?」


 ご名答、僕は魔法使いさ。とんでもない化け物クラスのね。

 にやにやと笑いながら、僕は女の子をしっかりと抱き抱える。

 別に女の子の体柔らかいなとか、良い匂いだななんて思っちゃいない。むしろ、ちょっと痩せ過ぎじゃないかと思っているくらいだ。僕の目から見たら幼女だね。

 あれ? こっちの方がまずい事言ってないか?


「じゃあ、頑張ってね~」


 と僕は颯爽と駆け出した。駆け出してから気がついた。


「道聞くの忘れたよ」



「兄貴、大丈夫っすか? 攫って来たのを攫われちゃったんじゃないすか」

「……いや、それで俺にどうしろと? どうしようもないだろ。それに、身代金は要求出来そうになかったからな」

「そうっすね、あんな屋敷に住んでるから金持ちかと思ったのに……」

「何? ここらにそんな屋敷があるの?」

「何言ってんだお前。こっから東に行った所に——テメエ!」


 道を聞くのを忘れたので戻って来てみれば、良い話を聞かせてくれた。

 身代金、ねえ。良い所のお嬢さんなのかな。


「報告ご苦労、ではでは」

「テメエ——って、何すんだ!」

「兄貴、止めてください! あんな化け物、関わるのはよしましょうや! どうせ、碌な娘でもなかったんですし」


 逃げる僕を追おうとする兄貴と呼ばれた男を、子分1が足止めしてくれた。うん、それでいい。僕なんかに関わると碌な事にならないぞ。

 で、僕の肩で碌な娘と呼ばれた女の子が、泣いているように震えていた。



 しばらく逃げて、まだ道に迷っていたので、不本意ながら女の子に道を教えてもらう事にした。道は道でも、獣道だけど。

 担いでた女の子を下ろして、その手枷を取ろうと手を伸ばしたら、


「こ、来ないでください!」


 ざざっと女の子が後ずさりされました。

 ……ショックだった。

 いや、まさか助けた女の子に引かれるくらい自分が胡散臭いとは思わなかった。


「私に近寄らないでください」

「いやいや、別にやましい事は何もしないよ?」


 そう言って、僕は女の子が被っていたフードを取る。こういう時は、目と目を合わせて話すに限る。っと、顔が泥かなにかで黒く汚れているじゃないか。可愛い声なのに、勿体無い。

 僕はさりげなく、魔法を宿した手で女の子の顔を拭った。


「ほら、顔もつるつるじゃないか。だからほら、君の綺麗なお手てをおじさんに見せてご覧?」


 言ってる事につながりがない。どんな接続詞『だから』だろう。

 っていうかコレ、どっからどう見ても変態だぞ、僕。

 そんな僕をきょとん、と見つめる女の子。何がオカシイんだい、言ってご覧? おっさんの顔かい、それとも頭の中かい? 

 どっちもだね。


「……。こう、ですか?」


 と、差し出される手。じゃらりと音を立てる手枷。純朴そうな瞳。

 え? あ、そう。手、出しちゃうんだ。


「あ……うん、そうそう」


 驚きながらも、当初の予定通り手枷に魔力を流して鍵を外す。

 じゃらりと音をたてて落ちる手枷を、手みやげ代わりに拝借した。持っていてもしょうがないだろう。


「じゃあ、道案内してもらおうかな」

「はい?」

「君の家、どこにあるんだい? 大層な屋敷らしいじゃないか。ちょっくら御呼ばれさせてもらうよ」


 髭を撫で付け、最後には眼鏡を押し上げる。

 ……ううむ。仮想人格βに好き勝手やらせていると、僕の評判を心底落としてしまいそうだ。いや、最初から底辺から動いてないんだけどさ。むしろ悪目立ちしているよ。態度が『Gランクの天才』として。

 いい加減、方向転換しないとまずいかな。今度から真面目に依頼を受けてみよう。やるからには本気で。幸い、まだそんなに悪名は轟いていないしね。

 と、そんな心を改めようとしている僕に、女の子は言った。


「はい! ぜひ来てください、私の騎士様♪」


 とても可愛らしい(当時十三歳の)笑顔だった。

 え? はい? 何それ? さっきのコント、聞いてたの? いや、あちらさんにしてみれば真面目にやってたのかもしれないけどさ。

 僕は何がなんだか解らなくて、仮想人格βに任せた。


「そんな可愛らしい笑顔、騎士を怪盗になさるおつもりですか? お姫様」

「嘘つきな騎士様にはピッタリですね」


 僕は少しびっくりして、それこそ図星だと言わんばかりに引いてしまった。

 そんな僕を見て、女の子はくすくす笑っていた。

 くそ、幼女に笑われるとは何たる恥! 驚かせてやる!

 という子供っぽい理由で、僕は魔法を解いたのだったが……。


「……意外です。……カッコいいじゃないですか」


 よく考えたら、僕はこの子の前で一度変化してみせていたじゃないか。

 あまり驚かない女の子に、僕は自分の愚かしさを感じ取っていたりした。


「さあ、付いて来てください。お持て成し致します」


 そう言って、とことこ先に歩いて行く女の子。

 そう言われて、僕はとぼとぼ後を追って行った。


 そう言えば、僕をカッコいいって? そんなお世辞——聞き慣れてないから嬉しい。

 

「そう言えば、名前、言ってませんでしたね。私の名前はアオイです」

「僕は名乗らないよ。『Gランクの天才』なんて、俗では呼ばれているけど」


 褒められたのが嬉しくて……僕はアオイの住む屋敷の前に着くまで、おっさんの姿にならなかった。

 ちなみに、結局名乗らされるはめにはなった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 これが、僕と呪われていた少女、アオイの出会いだった。

 一人の呪いに掛かった人、っていうのはアオイのことだ。

 呪いにかかって療養していた彼女が誘拐されたのを、偶々助けて、ついでに呪いも解いちゃったと言う話。

 それにしても……、今も昔も、僕は姿を隠す事にこだわりがないな。結構簡単に魔王の姿を曝してるよ。碌でもない理由で。

 まあ、それもこれも、公式記録上では魔王は死んでいるからなんだけどさ。


 閑話休題。

 

 そんな彼女との出会いから三年、前世では結婚出来る歳になったアオイ。生意気で(無邪気で)憎たらしい(可愛らしい)餓鬼だった彼女も、大人になったのか。


 僕はそんな事を思いながら、新たなる依頼の地、ニルベリア皇国へと旅立とうとしていた。


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