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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第一部 序章
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エピローグ

 後日談。


 あの後、僕たちは特に問題を起こす事無くアイカシア国首都、アカシアに到着した。やはり黒幕連中は、あの少女とラングを雇うのが精一杯だったのだろう。

 ちなみに、調べた所、あの少女は現在行方不明となっているようだ。復讐でもしているのか、自由な人生を満喫しているのか定かではないが、暗殺者稼業はあまり好きじゃなかったようだ。僕としては後者であってほしい物である。


 カイル達とは首都の彼らの屋敷前で別れた。


 カイルには今回の事件の黒幕らしき人物を伝えておいた。一応、少しだけ彼とはつながりを持っておきたかったのがある。あと、アイカシア国は少しだけ土台が脆く、優秀な人材をさっさと手放すんじゃないかなと思っているのもあったが。

 一応僕、魔王だからね。いずれ作るかもしれない王国に優秀な人材が欲しいのだ。


「レイさん、あの……うちの屋敷で働きませんか?」


 というリース嬢のお言葉をを丁重に断り、報酬を受け取りギルドへと向かった。リース嬢と一緒の屋敷で働けるのは嬉しいが、それで迷惑はかけられない。それに、美人って裏がありそうで怖い。いや本当、なんでそんな事言ってくれたんだろう? 仮想人格βのリース嬢に答えてもらうのは最低だと思うので、未だに僕の中でもそれは疑問だ。


 ガイラスの死体は、彼の名誉を考えその場で葬った。仲間に裏切られたとはいえ、あまりにも情けない死に方だったからだ。といっても、爆破されてしまったので、結構適当な埋葬になったが。今思うと、あの鉄の塊はもしかして……手榴弾? 僕以外にも、前世の記憶持ちがいるのかもしれないな。


 ラングの死体は、場所が解らないのを好都合と考え、そのまま放置した。結局、彼が何を思ってその依頼を受けたのか、僕らには解らなかった。そのため、同情する事も、深く恨む事も出来ず、なんだかもやもやした物が残った。



「……レイさん、色々助かった。ありがとう」


 ギルドで任務完了の旨を伝え、すぐに宿屋に向かおうとする僕に、シュイが話しかけて来た。


「礼は要りませんよ。僕たちは助け合う関係を結んでいた訳ですから。それぞれがベストを尽くしただけでしょう」


 僕の台詞にシュイが苦笑し、やっぱりおっさんだな、と謎の台詞を吐いた。

 飄々とした態度、これがレイというおっさんのキャラなのだ。


「では、またいつか会える日があれば。僕は敵としては現れませんので」


 と格好付けて去ろうとした途端、ぐいっと袖が引っ張られ、危うく転びそうになった。誰だこの野郎! 僕は全然寝てないんだ! 眠たいんだぞ! このままここで寝るぞ! 自慢じゃないが、一度寝たら朝まで起きない事に定評があるんだ!

 と、内心で怒ったのだが。


「レイ……、ありがと」


 フィーがぼそりと呟いた言葉で、それはどこかに消え去ってしまった。

 呟きの後、フィーは何故か胸を張って言う。


「いつかあんたを仰天させるような魔術を見せてあげるんだから!」


 いやいや、今この瞬間、僕はものすごく驚いたよ。

 フィー、ツンデレだったんだ。



「やれやれ、今回は妙に疲れたな」


 夜中、僕は首都で一番高い宿に泊まった。フィーやシュイは知らないが、どこか別の所に泊まっているはずだ。フィーはリース嬢の屋敷にでも泊まっているのではないだろうか。仲良かったし、あの二人。

 看病したがるリース嬢に追い回されて僕の後ろに隠れるフィー。おっさんに近づけずに困惑するリース嬢、何やら誇らしげなフィー。どさくさに紛れて、王子様気取りでフィーを抱きしめる僕、幾ばくかの沈黙の後殴られる僕……とか色々あったような無かったような。

 微妙に背の高いおっさんの姿から小柄な僕の元の姿に戻り、大きなベッドに寝転がる。窓から差し込む月明かりしかない部屋のため、僕の黒髪は闇夜に紛れる。そのためか、この国では黒髪が嫌われている。

 黒髪自体は少なくないのが現状だが、帝国のお偉いさんの誰かが、魔王は黒髪である、などと言ったもんだから、僕としては魔法で変化して出歩いているのだ。迷惑極まり無い。いや、僕が魔王なのは真実だけど。

 そのためか、国民の大半が黒髪であるニルベリア皇国と帝国は仲が悪い。魔王の黒髪説は、実のところニルベリア皇国に攻め入る理由にしたかったのではないかと僕は思っている。

 今回の任務の報酬は、金貨三十枚、日本円にして三千万円の仕事だった。宿屋は銀貨三枚、三万円での宿泊である。

 ちっ、安いな。宿屋の値段じゃなくて、報酬がだ。

 依頼内容と見合っていると言えば見合っているが、これじゃあ同志に顔向け出来ない。あいつ等は白金貨で報酬を得ているんだ。

 それもこれも、僕のためなのに、その僕の報酬が一番少なくてどうするよ。

 といっても、『王が自ら働くな! 金を稼ぐのは俺等の役目だ! そして老後は楽させろ!』とか言い出しそうだ。まだ僕は王になっちゃいないと言うのに。


 と。


 僕以外の気配が、部屋から感じられた。

 いやはや、今日は僕に取っては厄日かな?


「……どうしたんだ? 僕に何か用?」


 それは、あの暗殺者の少女だった。

 行方不明と聞いていたが、まさか僕の後をずっと付けていたとか? ストーカーか、別に嫌いじゃないな。そういう一途な子は好きだよ。

 え、違うって? そりゃ残念。


「…………」


 ベッドで横向けで寝ている僕の方に、無言で近づいてくる少女。

 何か言ってほしい。僕はどんな態度を取れば良いんだよ。

 言葉にしなくても伝わるのが一番だけどさ、結局言葉にしなくちゃ伝わらないんだよ。言葉にする事が大切なの。恥ずかしくても。

 はい、だから何か喋って!


「………………」


 という僕の心の中の叫びでした。

 ほらね? 何も伝わらない。

 少女が、僕の前に立ち、僕を見下ろした。ぞくりと、身体が震えた気がした。

 今度はしゃがんで、僕と目線を一致させる。どきりと、胸の鼓動が高鳴る。

 僕はその少女の目を、真っ直ぐに見つめ返す。良く言うじゃない、目の動きで何を言いたいのか解るって。僕? 全然解らんよ。精々、嘘をついているかいないかだね。この状況では何の意味もない。

 無言で見つめ合う僕ら。

 少女の水色の瞳の中に、僕の顔が映っている。なんか男らしくない、見るからに弱っちい顔だ。それに僕は身体も小柄だし。だから背の高いおっさんに化けるんだけど。まさか、背の高さまで変えるとは思わないだろ。

 そんな事を言っても、僕は公式記録上では死んだ事になっているんだけど。

 この魔法を使って、親友が僕に成り代わって死んだから。

 思わず、思い出し涙(?)が零れそうになった。僕は弱虫だよな、僕の姿のままじゃ、すぐに泣いちまう。涙腺が弱いんだ。

 でも、それが僕が父さんと母さんの息子である証明みたいな物だと思っている。前世の僕は、とにかく泣かなかったから。


「……どうしたんですか?」


 と、不意に声がかけられた。

 それは、酷く優しげな音色で、何故だかとても心地よい響きだった。


「ちょっとね、嫌なこと思い出して……」

「……そうですか」


 訂正。全然優しくない。むしろ氷河期のように冷たいよ、この子の声。彼女の名誉のために良く言うなら、鈴を鳴らしたような声かな。風鈴みたいな感じ。悪く言うなら、氷のホテルで響くかき氷の皿の音。どうしてかあの皿の音は、酷く冷たく感じる。

 興味がわいたので、彼女の容姿を注意深く観察してみる。

 ……ふむ、あの時は気付かなかったが、この子もかなりの美人だ。可愛さとクールっぽさが入り交じった、どこか大人びた少女。笑えば年相応の可愛さだろうが、無感情なので大人っぽく見えるのだ。


「…………」「…………」


 再び沈黙。息苦しい夜。別に熱くはないんだけどさ、寝苦しいぞこの状況。いや、寝たら寝たで、永眠になる気もする。

 ……まあ、いっか。

 なるようにしかならないよ、人生は。

 僕がここで死ぬようなら、僕って人間はその程度の人間だったってことさ。

 生きる努力はするけど、努力の必要性がない場面ではしないよ。

 じゃあ、おやすみなさい。



 目が覚めたらブルースクリーンだった。

 ワット!? 何が起こった!? 強制ログアウト!?


 否、少女の髪が目の前にあった。

 どうやら、一緒のベッドで寝ていたようだ。

 なんだ、そんなことか……え?

 僕は寝惚けると言うことがない。だからこれは、明らかに混乱。朝っぱらから状態異常。いや、宿屋で休めば回復するはずーーいやいや、落ち着け僕、何の話をしている!?

 ちらりと僕は視線を下げると、可愛らしい寝息を立ててらっしゃるお嬢さんの、これまた可愛らしい寝顔が。

 さらに視線を下げると彼女の腕が僕を抱きしめており、胸のあたりに柔らかな感触が。

 さらに下げると、足と足が絡み合っているじゃないか。白い生足がーーあ?

 よく見れば、彼女の格好は下着に、薄手のシャツと言う格好だった。

 ふむーー、僕は抱き枕にされていたようだ(一行前についてのコメントはしない)。


「え? あ、え?」

「うぅ……」


 僕が挙動不審になり、逃げ出そうとした所、彼女の抱きしめーーもとい締め付けが強くなった。だ、脱出不可能です大佐! 気持ちよくて良い匂いがしてなんか柔らかくて、僕の理性が無くなりそうです!


「——ッ!!」


 どうにかしなくちゃ。

 とりあえず、理性があるうちに行動してみた。


 少女の頬にキスしてみた。


 うんとね、王子様のキスでお姫様が目覚めないかなってね?

 

 理性は無くなっていたようだった。


「うっ?」


 と頬が濡れたのが気に触ったのか、少女がゆっくりと目を開けた。ぱちりと開かれた時には、僕は燃え尽きていただろう。寝起きが良いだけだったとしても、見られていたと思って爆死していただろう。


「お、お目覚めかな?」

「……………」


 無言で、こくりと頷く少女。

 うむ、意思の疎通は可能なようだ。

 でも離してくれないのは何でかな?


「えっと、とりあえず、どうしたの?」

「…………」


 また無言。言葉にしなくちゃ、伝わらないんだよ。

 と、そんな僕の心の声が聞こえたのか、ついに少女が話し出した。


「……あなたが、私を助けてくれた」


 いや、それどうしたのは僕じゃないかよ。君がどうしたいのかを聞いてるんだ。いや、どうしてこんな事をしているのかも聞きたいけどさ。

 胸がドキドキ、この鼓動が君に伝わりませんように。


「……私は、あなたに感謝してます。……でも、恨んでもいます。どうやって生きて行けば良いのか、私には解りません。……責任、取ってください」


 甘ったれんじゃないよ! それがどれほど自分に対して無責任な発現だか解ってるの!? 後悔するよ!

 と、心の中で大反対。


「……責任って、君、僕の正体解ってるよね? 僕、魔王だよ? 魔王に責任を預ける君は、凄く無責任だ」


 意外と口でも反論出来た。けど、口だけだった。

 少女の瞳に映る涙に、僕の心は崩落していた。


「……私は、生き方が解りません。依存しなければ、生きられません。……だから、どう扱っても結構です。あなたと一緒にいても良いですか?」


 ああわかった、いいよ。

 でも一緒にいたい言っても、終始抱き枕みたいに抱きしめられてても困るんだけど。これじゃあ僕動けない。


「……駄目?」


 と小首を傾げる少女。


「駄目」


 僕は断言してみせた。そして、間髪入れずに次の言葉を紡ぐ。


「君を一人の女の子として扱ってもいいなら、いいよ」


 と僕は笑って答えた。

 『動けないから離して』、と僕は言わなかった。代わりに、少し強めに僕から抱きしめていた。

 後に判明した事だが、どうやら僕の理性は簡単に吹っ飛ぶようである。


「……こういう時、なんて言えば良いのかわかりません。…………でも、あなたと一緒にいると、凄く……胸が熱くなります。それが、心地良いんです」


 そりゃ抱き合ってるからね、僕の熱が移ってるだけじゃないか?

 心地良いとかは知らない。僕はちょっと久々の人の温もりに泣きたいだけなんだ。それが愛情と言うのなら、僕の胸のムカムカは、そういうものなのかもしれないけど。

 けど。


「……なんだよ、生きるのに一番大切な物は、解ってるんじゃん」

「?」


 首を傾げる少女に、僕は答えを教えた。


「幸せだよ」


 僕に取って、実は復讐なんて二の次だ。

 僕を助けてくれた皆が、それを望むとは思えない。

 だから僕は死んでしまった彼らの分だけ、人を幸せにしようと思ってる。

 それが僕の世界の破壊。不幸な人の世界の破壊。

 だが、僕は魔王だ。きっとマトモな人間にはならないと思う。人の気持ちなんてさっぱり解らないし。

 だから——。


 手始めに、僕が幸せとやらを知らなきゃ駄目かな。

 と言う訳で、この目の前の女の子に精一杯甘えさせてみた。



 ここからはあとがきです。本編とは関係のない話がだらだら続きます。

 興味のない方、そういう話は嫌いな方は、どうぞ読み飛ばすなり、ブラウザの戻るボタンをクリックしてください。








これにて、例えば仮の魔王様、序章が終了です。

……予想以上に話数が伸びてしまいました。反省します。その割に文字数が少ないのも、反省ですね。


今回の物語、私としては色々とチャレンジ精神で書いた作品です。

例えば、戦闘が短い(私の作品全般そうかもしれませんが……)。

世界観をあまり語っていない(国の名前とその内情程度)。

魔法がチート(他のシリーズでは『能力』と表記していたりもします)。


上記の二つは、単純に私が読んでいても読み飛ばすので、書くスキルも未熟なのだから、いっそのこと短くしようとした試みでした。

三つ目が、このシリーズ全般に言える事でしょうか。


私は、電子機器一般がどうやって動いているのかさっぱり解りません。

こういう理屈で動いているんだよ、と言われてもなんとなくでしか理解する事が出来ません。

パソコンなんかが特にです。

そのソフトを構築している言語と理論は結びつけられても、その下、ハードでどのような動きをしているのかがまるで理解出来ません。

私のプログラムの理解は、言語を理論通りにすればとりあえずこういう結果を生み出す、という認識です。それをたくさん繋げて、ソフトを作っていると。

この物語で言う魔法とは、そんな感じです。

どういう現象が世界に起こっているのか解らないが、とりあえずこういう結果になる、という現象です。

本当、チートです。でも、それをただのチートでは終わらせないようにしようと思います。


『例えばシリーズを足して二で割った作品』の余剰分だったのですが、頑張って更新して行こうと思います。


 次回はいつになるか解りませんが、次章

『純情な生け贄と黒のマモノ』、エピローグでまた何か語ろうかと思います。


 最後になりますが、感想・評価、とても自信になりました。

 ありがとうございます。これからも、よろしくお願いします。

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