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矢野リリアーヌの証言

【矢野リリアーヌの証言】


 オーナーの奥さん、リリアーヌさんはフランス人だ。彼女は金色の長い髪を持っていた。海外にあまり行ったことのない俺は、その透けるような金色をあまり見ないようにしながらも、気になってついつい見てしまっていた。彼女はその金髪を後ろで一つに結んでいた。当たり前だか、顔の彫は深く、彼女の顔からは日本人女性にはない勇ましさや、優雅さのようなものを感じた。瞳の色はブルーだった。

「オーナーの幸一之介さんとは、いつ知り合ったのですか?」

「三十年前です。彼がフランスにフランス料理を学びにきた時に知り合いました」

「そのあと日本に来たわけですか。日本はもう長いのですか?」

「もう二十五年住んでいます」と彼女は言った。少し緊張しているのか、まばたきを多くしていた。

「どうですか日本は?」と佐々木は聞いた。

「素敵なところです。初めて来たとき、なんとなくですけど祖父母が住んでいたドイツを思い出しました」

「どうして日本へ来られたんですか?」

「幸一之介がいたので、来ました。日本にも興味があったので。それ以来、ずっと日本です。年に一回はフランスの方にも帰りますけど」

「では、昨日のことをお聞かせください。まずは真田さんと磯台さんのこと。何時頃、ここへ到着されました?」

「たしか午前十一時だったと思います。昼食をまだとっていないということでしたので、パスタとサラダを主人が出しました」

「それから?」

「それから、夕食の時間までお部屋で休まれていたと思います。夕食は六時からだったので、その時また電話をすると伝えました」

「磯台さんと真田さんは何度もこちらへこられていたんでしょうか?」

「真田さんは初めてお見えになりました。磯台さんは、二、三回宿泊されています」

「なるほど。次はどなたがお見えに?」

「次にお見えになったのは花城さんです。午後二時くらいだったと思います」

「花城さんはいつ宿泊の予約をしたんでしょうか?」

「一週間前です。インターネットでも予約を受け付けているのですが、直接電話をいただきました」と彼女は言った。まばたきの回数は減っていた。

「何泊する予定で?」

「一泊とのことでした」

「なるほど。そして次に二階さんですか」

「はい。二階さんは、その日に予約の電話を頂きました」

「何時頃ですか?」

「たしか、三時です」

「なるほど。到着はいつでしたか?」

「四時半くらいでしょうか。道に迷ったとおっしゃってました。街の方からは、ずっと真っ直ぐ進めばいいので分かりやすいんですが、スキー場の方からは分かれ道がいくつかあるので」

 つまり二階はスキー場方面から来た可能性が高いということだな。

「皆さん変わった様子はありませんでしたか?」

「ええ、特には」と彼女は言って思い出したように「ああ、やっぱり予約の電話は三時で合ってます。花城さんにお茶を出していたら、電話が鳴ったので」

「それは確かですか?」

「ええ。時計を見ました」

「では、夕食の時なのですが、何か変わった点はありましたか?」

「特に思い当たるようなことは……」

「そうですか。では、午前零時五十分頃の話を聞かせてください」

「はい」とリリアーヌは言って、愁いの感情を瞳に出した。

「私はリビングにいました。テレビで天気予報を見てから寝ようと思っていたので。そうしたら大きな声が聞こえて……。テレビを消して、声のしている二階に行きました。声のしている二○二号室に行くと、二階さんと、花城さんがいました。その奥に真田さんと……磯台さんが……」と彼女は言って言葉をつまらせた。

「如月さんはいましたか?」

「いえ。彼は私の後に来ました。『どうしたんですか?』と私に言いました。私は『分からない』と返しました。そして、如月くんが『警察に』と言ったので、驚いて『警察?』と聞き返しました。そうしたら、二階さんが『警察に電話だ』と仰って。いつの間にか来ていた幸一之介が電話をしに一階へ戻りました。如月さんは、部屋に入って、磯台さんを見ると『死んでいる』と……。私はそれを伝えるために一階に。伝え終えると、また二階に戻りました」

「なるほど」と俺は言った。佐々木は熱心に何かをメモしていた。

「では、その後のことを」

「はい。そのあと幸一之介が私たちを呼びに来ました。そしてリビングに行って、私と如月くんはお茶を出しました。リビングで朝までいるのは辛かったです。皆さん、心配そうでした。でも、花城さんが寝始めるのを見て、なんとなく私も安心してしまって、そのまま少し寝てしまいました」

「何か気になったことはありましたか?」

「特に何も。ただただ怖かったです」

「わかりました。ありがとうございます」と俺は言った。「ああ、そうだ。内線電話の履歴など見れますかね?」

「はい。見ることはできます」

「あとで見せてもらっても?」

「はい。大丈夫です」

 俺は佐々木に目配せをして、最後の人物を連れてきてもらうよう頼んだ。彼はリリアーヌを連れて、リビングから出て行った。

 たばこが吸いたいな。だが今は堪えどころだ。最後の人物の話を聞いたら、事件の全容がなんとなく見えてくるだろう。


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