第9話 その目的
父が出て行ってからしばらくしても、爆発音は鳴り止まなかった。
私たちは他の村人たちと一緒に、外れの高台にある避難場所にいた。
ここから見下ろしてみると状況は一目で分かるが、どうやら村の中に攻め込まれたらしい。今、村の至る所で爆音とともに火の手も上がっているのが見える。
私はそれを見詰めながら右手で左腕のブレスレットを、ギュッと強く握り締めていた。
「お姉ちゃん……」
ソーマは震えながら、私の腰にしがみついてくる。
「大丈夫よ。だって父さんが戦ってるんだもん。きっと全部やっつけてくれるわよ」
まだ十一歳になったばかりの弟の、私と同じ色をした髪を撫でながら慰めるように言った。
しかし私は――。
(本当は私も戦うべき、なのよね)
これでも精霊術士の端くれなのだ。
まだ実戦経験があまりないとはいえ、少しでも戦力にはなれるはずだ。
なのに私は「一緒に戦いたい」と、何故言えなかったのだろう。
母が亡くなってから、男手一つで育ててくれた父を心配させたくないという気持ちと、姉として弟を守らなくてはいけないという気持ちもあった。
だがそれ以上に、私も生まれ育ったこの村を守りたかった。
それに今の自分の実力を知る、良い機会でもある。
父には「魔物と戦うのはまだ早い」と言われ、今までギルドの仕事を受けさせてはもらえなかったのだが。
私は強くなりたかった。強くなってみんなを守りたかった。
父のように―――。
「エリスちゃん、ソーマちゃん。無事に避難できたのね」
疎らにいる村人たちの間を縫って、恰幅の良い女性が体を揺らしながらこちらへ向かってきた。グランドおじさんの奥さんである、ハンナおばさんだ。
「良かったわ。心配していたのよ」
おばさんは一瞬ほっとした表情を浮かべたが、すぐに丸い顎に手を置くと、眉をひそめた。
「まさかウチの村がこんなことになるなんてねぇ。本当、今までギルドは何をやっていたのかしら」
「でも、父さんとおじさんも参戦してくれてるし。だから多分、大丈夫だと思います」
「だと良いのだけれど……」
町や村を襲ってくる魔物は、大抵下位クラスだ。その目的は『食料強奪』が殆どである。
恐らく今回もそれが目的であろう。現に戦闘区域は村の中心でもある、貯蔵庫付近に集まってきている。
「あら? いやだわ」
おばさんが突然声を上げた。
「ねぇ、エリスちゃん見て。あれ、ウチの方角じゃないかしら?」
私はおばさんの指差す方向を見た。
私とおばさんの家は、西門と貯蔵庫間の通り道付近には建っていない。しかも反対側に位置するはずだ。
しかし離れたその場所からも火の手が見える。
「おばさん、ソーマをお願い!」
私はそれを見た途端、居ても立ってもいられなくなり、おばさんの返事も待たずに丘を駆け下りていた。