第8話 故郷襲来!
私は目を閉じると、すぐ眠りに落ちたようだ。
人間というのは不思議なもので、このような状況下でも普通に眠れるらしい。
そして夢も見る。
私はあの時のことを夢に見ていた。
「ウィル、大変だ。すぐに来てくれ!」
あの日、隣に住んでいるグランドおじさんが息を切らせて、家に駆け込んできた。
「! どうした、グランド!?」
血相を変えて飛び込んできたおじさんに気づき、さっきまで新聞をのんびりと読んでいた父は慌てて駆け寄った。
「すぐに……来て………」
自分の年齢も顧みずに全速力で走って来たらしく、おじさんはその場に座り込むと、肩で息をしながらゼイゼイと喘いでいた。
「おじさん、お水どうぞ」
息を切らしてまともに話せないおじさんを見かねたのか、すかさず弟のソーマがおじさんの目の前にコップを差し出した。おじさんはそれを奪うように受け取ると、一気に水を飲み干して呼吸を整え、改めて父に言葉を伝えた。
「ここにヤツらが攻めてきた。それもすごい数のヴォーウルフの群れらしい。まだ西門の辺りだ。ウィルもすぐに来てくれ!」
『ヤツら』というのは、当然魔物のことである。
城砦などのある王都のように、防衛対策が万全な都市部では滅多にないことだが、その他の小さな町や村を魔物が襲うのはよくあることだった。
それを阻止する目的で時々討伐隊が編成され、周辺の魔物を一斉に駆逐するのであるが。
「ギルドの連中はどうしたんだ!?」
「今、人を集めている最中だが……ギルドでも今回のことは予想外の奇襲だったらしく、どうやら人手が足りないらしい。周辺の町村にも緊急で応援要請しているようだが、しかし間に合うかどうか……」
「わかった。すぐに支度しよう」
父はそう言うと、壁に掛けてあった精霊術士用のローブを掴んだ。
遠くの方で爆発音が聞こえてきた。地響きでこの家の窓もビリビリと震動している。
立ち並ぶ家屋の向こうでは、煙が立ち上っていた。西門の方角だ。
「! とうとう、始まったか」
父はその煙を見ると舌打ちし、急いでローブを着ながらおじさんの後に続いて出て行こうとする。
「父さん!」
私は我慢が出来なくなって、その背中に声を掛けた。
「エリス、父さんがいなくても二人でしっかり避難するんだぞ。それにソーマのことも頼む」
振り向いた父は、私に笑顔を見せた。
「……でも」
「心配はいらないさ。父さんがこの村には、一歩も入れさせないからな」
私は余程父に向かって不安そうな顔をしていたのだろうか。
父は元気づけるように私の頭に手を置くと、そう言い残して出て行った。




