第53話 帰還
カタトス町の中央を横断するかのように、一本の広い通りは存在する。
多少活気のある町ならば何処でもそうなのだが、大きな通りという場所は露天が両脇に建ち並び、賑わっているものだ。
現在私たちは、そこから外れた裏通りを歩いていた。この道は大通りほどではないがそれでもいくつか店があり、店先の匂いに誘われた買い物客などでそれなりに賑わっていた。
いつもならそれらを巡り、売り物など心を躍らせながら見て回りたいところなのだが、今はそんな気分ではない。私は肩を落とし、溜息を吐きながらエドと一緒に歩いていた。
「エリスさん~落ち込まないでください~。いくら調べても~分からないものは~仕方ないと思います~」
「それはそうなんだけど」
あの後、先に入り込んだ私たちのせいで中位クラスの魔物には逃げられたのだと、隊長からはクドクドと説教された。その時に一緒に聞いた話では、大量のスケルトン・キラーの残骸と、さらわれた人たちの物とおぼしき衣服や小物類が、洞窟の中に残されていたらしい。
そこから推測するとどうやら中位クラスたちはあの洞窟で、スケルトン・キラーを製造していたのではないかというのだ。マクガレー隊長によれば、勢力拡大のためにそういったことを行う魔物もいるという話だった。目的など詳しいことは不明だが、これから調査するという。
本当なら妨害工作をしたということで重罪になるところだが、私たちがまだ巡礼者だということもあり、厳重注意だけでお咎めなしだった。
かなり甘い処分のようだが、「討伐隊の到着が遅れたから」というのも理由の一つだと思う。「何故遅れたのか」という訳までは、訊ける雰囲気ではなかったから訊かなかったが。
私たちは洞窟から六日前に戻ってきていたが、この町には未だに滞在している。
その間何をしていたかといえば、毎日図書館へ通い、あの魔物に付けられた紋様のことを調べているのだ。
しかしどの書物を開いても、それらに関しての記述が一向に見つからないのである。
「術医さんも~言っていたじゃないですか~。書きかけの~マーキングかもしれないって~」
当然、町の術医には見せた。だが術医にも、これが何の術なのかまでは分からないようだった。
術医の話では、中位クラスの魔物には時として、マーキング(印)を利用した術を使用してくる者がいるらしい。
紋章のような印を人間に付け、それを介して生体エネルギー――即ち、術発動時に精霊力とともに使用する精神エネルギーを抜き取るというのだ。抜き取られた人間は弱って死亡するのだが、死体にはその時の刻印だけが残されたままだという。
だが私たちはマーキングをされたにもかかわらず、生きていた。
それについての術医の見解では「施されたのは不完全なものかもしれない」とのことだった。「書きかけ」にしか見えないほど単純な紋様だというのだ。このような紋様は術医自身も嘗て見たことがないらしい。
言われてみれば痛みは、目が覚めた時の一回だけである。その後も精霊術は普通に使えるし、身体にも全く変調は見られなかった。術が発動した様子もない。
しかし私は勿論、この話には納得していなかった。
何故ならあのサラという名の魔物。あの魔物がわざわざ、書きかけのマーキングだけを残していくとは思えなかったからだ。