第51話 腕の紋様
喧騒。私を呼ぶ声。
それらが耳元で、ぐるぐると渦を巻いている。
あまりにも煩さすぎて、私には我慢の限界が来ていた。
「あーもう、うるさーい!」
勢いよく振り上げた拳からは、鈍い感覚が伝わってくる。
「非道いですよエリスさん~、いきなり殴るなんて~」
「ん? あれ?」
私はここでようやく目を開けた。
目の前には左右にずれた眼鏡を直しながら、私の顔を覗き込んでいるエドの姿があった。何故かその頬は赤く腫れていたが、それよりも気になることがある。
「ここは?」
「ここはまだ洞窟の中です~。エリスさんは~ずっと気を失っていたんですよ~。僕も~ついさっき目を覚ましたところなのです~」
起き上がって辺りを見回してみると、数十人の武装した男女が広間の中央にある階段を、ドカドカと足音を響かせながら上っていくところだった。
「あの人たちって…」
「討伐隊の皆さんです~」
と、突然左腕に激痛が走った。
「痛っ!」
思わず顔を顰めて前腕部分を押さえた。痺れるような感覚もある。
防御のため、服の下には籠手を装備していた。といっても剣士など近距離攻撃者のように頑丈なものではなく、丈夫な布に金属を埋め込んだ程度の代物ではあるが。
それでもある程度の衝撃は防げるはずだったが、痛みはその下からきているようだ。
(さっき魔物にやられた時にでも、痛めたのかな)
腫れ具合を確認するため、私はその場で籠手を外してみた。
「え? 何コレ??」
見るとその内側中間付近には、丸い形をした痣のようなものが浮かび上がっていた。大きさはこぶし大ほどで、円形のケーキに中心から上に向かってナイフを一本入れただけのような、単純な形の紋様をしている。
「あ! エリスさん、それ~」
エドが呆然とした顔で私の痣を凝視すると、同様に自身の左袖も捲ってみせた。
「実は僕もさっき~エリスさんと同じ場所が突然痛くなって~、見たら~こんなものが腕に~付いていたのです~。今は痛みが~引いたのですが~」
そこに現れたのは、私と同様の痣だった。しかも同位置に浮かび上がっている。
勿論意識を失う前には、そのようなものはなかった。となれば、考えられる原因は一つしかない。
「やっぱりコレって、さっきの魔物が付けたってことよね」
私は腕にある紋様を見詰めながら、眉を顰めた。