第46話 英雄の宿命
「村で『精霊の加護』が証明された翌日から、何故か妹が急に冷たい態度を取るようになったのだ。目線も合わせず、俺の顔を見る度に何やらブツブツと呟くようになったのだが、理由を尋ねても教えてはくれなかった」
その時のことを思い出したのか、アレックスは一瞬遠い目をした。
「俺はそんな妹との関係を修復したいと思い、親代わりでもある村長の所へ教えを請いに行った。だがそこには既に妹の姿があった。そして俺はその会話の内容を立ち聞きしてしまったのだ」
アレックスの表情が険しくなってくる。
「内容はカタトス町周辺で人間が数名、行方不明になっているという話だった。そこに魔王も関与していると、言っていたのだ」
くどいようだが『魔王』というのは、あくまでも伝説上のモノでしかない。
魔物のほうはどうだか知らないが、大半の人間は『架空のモノ』という認識であるはずなのだ。
しかし全ての人間がそうとは限らない。一部の人間では信じている者もいるらしい。
ともすればアレックスの故郷では『実在のモノ』という考え方のほうが、常識ということなのだろうか。
「俺はようやく悟った。
これは宿命なのだ、と。俺が魔王を倒すのは星の定めなのだ、と」
アレックスの全身に力が入っているのが、回している腕からも伝わってくる。
「そして何故妹が突然俺に対して冷たくなったのか、という理由も同時に理解した。
それは速やかに魔王退治へ行かなかったことに他ならない。
妹はいつまで経っても退治する気配のない兄に業を煮やし、失望したのだろう。
だから俺は決心し、そのまま村を飛び出したのだ」
辺りがしんと静まり返る。この場所だけ、時が止まっているかのようだった。
「もしかしてアレックス、魔王を倒さないといけない理由ってそれなの?
じゃあ、討伐隊よりも先に倒さなければならないって話は……」
「大勢でアジトへ乗り込んだりしたら、敵に逃げられてしまうではないか。ここは不意を突き、少数精鋭で攻め入った方が得策だと考えたのだ」
(少数精鋭って、あんた)
はっきりいって、ここまでアホだとは思わなかった。
もしあの魔王伝説が真実だとすれば、絶対に勝てるわけがない。例え国が率いる大軍で戦ったとしても、まず不可能だろう。
「世間では英雄の存在を信じない者が多い。だがここで魔王を倒せばその証ができる上に、俺も真の英雄になれる。まさに一石二鳥なのだ」
「す、す、すごいです~。アレックスさんて~それ程までに大きな運命を背負ったお人だったのですね~」
エドがアレックスに対し、陶酔しきった顔をしている。もし眼鏡の奥にある瞳もはっきりと見ることが出来るのなら、恐らくそれもキラキラと輝かせていることだろう。
(えーっと……何からツッコんでよいのやら?)
ツッコミどころ満載のアレックスに対して、私が頭を悩ませていると、
「フフフ…」
ふいに背後から、笑い声が聞こえてきた。