第44話 アレックスの故郷
アレックスの話を要約すると、こうだった。
身体に異変を感じたのは、山中で魔物相手に一人鍛練をしていた一ヶ月程前のことらしい。
何の前触れもなく『水の精霊』の紋様が目の前に浮かび上がり、魔物の攻撃を防いだのだという。
「俺は水属性の使い手だが、まさか鍛練で防御術も覚えられるとは思わなかったのだ」
「それ、鍛練は一切関係ないと思うわよ。ていうか精霊術士じゃない限り、防御術を会得するのはフツーに無理だから」
私の間髪を入れないツッコミで、アレックスは一瞬黙り込んだ。
が、直ぐに何事もなかったかのように話し続ける。
「そこで俺は嬉しくなり、妹にそのことを告げたのだ」
アレックスの両親は幼い頃に流行病で相次ぎ他界し、現在はその村に妹さんと二人で暮らしているらしい。
その上にお兄さんもいるようだが、放浪癖があるらしく、二年程前に旅へ出たきり消息不明なのだという。
「俺は当然の如く、妹も同様に喜んでくれると思っていた。しかし妹は俺の言葉を信じてはくれなかった。この実兄である、俺の言葉を!」
アレックスは口惜しそうに顔を顰めている。身体が動けば拳まで振り上げているところだろうが、今はあいにく動かない。
「だから俺は妹に証拠を見せてやった。右腕に浮かび上がってきた、精霊の紋様を」
「紋様?」
「そうだ。精霊のシールドが出現した時、同時に右腕も熱くなったのだ。気になり後で調べてみたところ、なんと紋様が刺青のように浮き上がっていたではないか。
無論今もそれは腕にある。君たちも疑うのであれば、見てみるがいい」
「それは是非とも見てみたいですぅ~。勿論~アレックスさんを疑ったりは~してませんけど~」
エドは好奇心いっぱいの顔をアレックスに向けていたが、しかし今は残念ながら確認することはできなかった。何故なら、全身を覆っている防具を外さなくてはならないからだ。
「それを見た妹は突然血相を変えると、直ぐさま俺を村長のところへ連れて行った。そしてあろうことか全村民の前で、俺を魔物の巣へと放り込んだのだ」
「そそそそれで~アレックスさんは~どうなったのですか~?」
「無論その程度の魔物など恐るるに足りぬ。同時にこれが『精霊の加護』を受けているという証拠にもなったのだ。
因みに俺は自分が英雄の末裔だという話は知っていたが、先祖が『精霊の加護』を受けたということまでは知らなかった。この辺りの話はその時、村長から教えてもらったのだ」
(そういえばさっき、リチャードもそのようなことを言っていたわね。でもなんでアレックスの故郷の村長も、それを知っていたのかしら)
疑問は尽きなかったが、一先ずそれは置いておこう。
「それで術が防御できるんだったら、エドや私の術も防げるはずでしょう。なんで私たちの術は防げなかったの?」
「それは君たちが人間だからだ」