第42話 目覚め
私の放った雷撃がアレックスの全身を覆った。そのまま俯せで地面へ倒れ込むと、やがてピクリとも動かなくなる。
「エ、エ、エっエリスさん~、何やってるんですか~!? アレックスさんを~殺す気ですかぁぁぁ
~!!?」
エドは動かない目の前のアレックスを見ると、大慌てで私の肩を強く揺さぶってきた。
「大丈夫。今の術には殺傷能力が全くないはずよ……多分」
私は力をかなり押さえ、全身に少し痺れを感じる程度のものしか放っていない。
しかし何故『多分』というあいまいな表現を付け加えているかというと、一般にはその程度であっても、アレックスにはどの程度の影響が出るか分からないからだった。
中位クラス以上の魔物や人間には殆ど無効なはずの術が、彼には効いているのである。つまりは『大した術でなくても効きやすい』体質をしているということになるのだ。
私は以前何処かで、そんな体質を持つ人間が稀にいるという話を聞いたことがあった。
そういった人間は例え威力の少ない術であっても、それ以上のダメージを負ってしまうものらしい。
アレックスはもしかしたら、この体質の持ち主なのかもしれないと思ったのである。
だがしばらく経っても俯せのままで、動く気配が全くなかった。様子を見ていた私も、やはり心配になってくる。
私は恐る恐る近づき、顔を覗き込んでみた。すると突然アレックスの目が、バチッと見開く。
「ぬぅっ何故だ、動けん!!」
身体は動かず、顔だけが苦しそうにジタバタと藻掻いている。
「あ、なんだ。いつも通りね」
その様子を見た私は額の汗を拭いながら、ほっと息を吐いた。誤って殺してしまったら、流石に寝覚めが悪い。
「アレックスさん~元に戻って良かったです~。さっきの~スリープでの目覚めさせ方といい~エリスさんの破壊力って~魔物よりも絶大なのですね~」
「そうそう。私の破壊力は魔物よりも絶だ……て、ちょっとソレ、どういう意味よ!」
私はまだか弱い少女なのだ。
「魔物より強い」と言われるのは一般の精霊術士としては褒め言葉かもしれないが、可憐な少女の私にとってはやや複雑な心境でもある。
加えて不覚にも、滅多にやらないノリツッコミまでしてしまった。思わずエドの唄に乗せられたカタチだ。
「君たち、俺は一体どうしてしまったというのだ?」
私が密かに落ち込みながら反省していると、アレックスがそのままの体勢で話し掛けてきた。
「はっ! ま、まさか」
元々色素の薄い顔色が、「薄い」を通り越して青白くなっていく。
先程混乱していたとはいえ、仲間であるはずの私たちを襲ってしまったということに、ようやく気付いたのだろう。
「俺の知らぬ間に首から下のこの身体が、あの魔物によって改造されてしまったとでもいうのか!?
事実、それが自分のものではない感覚をしている。故に全く動かぬ!
ではこの身体が今現在、どういったものに変化しているのか。
蛇か? カエルか? ムカデか?
もしくはゲジゲジ、ザトウムシ、サナダムシあたりか?
そうだエリスすまないが、現在の俺のこの姿を教えてく……」
「んなワケあるかーーっ!!!」
力一杯ツッコんだ私の声が、この大広間へ響き渡った。