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第40話 異変

 どごっ!


 私たちの背後にあった壁に、アレックスは勢いよく突っ込んできた。

 物凄い音を響かせてその一角が崩れ落ちる。そして再び後ろを振り向くと、スケルトン・キラーの群れの中へ何の躊躇いもなく飛び込んでいったのである。


 上下左右斜め、全くでたらめな軌道をしていた。

 それを見ているリチャードも、流石に困惑している様子だった。傀儡であるはずのスケルトン・キラーや上空から攻撃している怪鳥でさえ、その動きには翻弄されているのだ。


 私もその場で座り込み、動き回っているアレックスを呆然と眺めていた。

 間一髪であの攻撃を避けることはできた。が、自分の心臓がまだ早鐘のように鳴っているのを感じている。

 飛び散った破片により腕や顔に多少の傷が付いたものの、その程度ですんだことは幸運かもしれない。まさか自慢の逃げ足の早さが、ここで役に立つとは。


(それにしても)

 先程のアレックスの目。

 涼しい眼差しの中にあるいつもの熱い光が、そこにはなかった。一欠片の感情でさえ見つけられない、濁った瞳だけである。

(アレって、もしかして)


 私は隣で同じように座り込んでいるエドに訊いてみた。

「エド。今のアレックスって、まさか……」

「はい~多分僕の術に~かかってるんだと思います~」

 エドはいつものように明るく唄いながら答える。


「やっぱり」

 私は全身の力が抜け、ガクリとその場に両手を付いた。

(しっかし、なんだってこんな時にかかるかなぁ)


 とことん空気の読めない男である。

 魔物の術は精霊力で跳ね返せるのに、何故エドのものには簡単に引っ掛けられるのか。

 いろいろ疑問も残る。

 だがそれはアレックスが正気に戻ってから、ゆっくり訊けばいいだろう。


 そんなことより今は、目の前のこの状況をなんとかしなければならない。

 彼は自身の剣筋など全く関係なく無駄な動きで剣を振り回しつつ、戸惑うスケルトン・キラーや既に術に嵌っているモノたちを運良くなぎ倒しているようだ。混乱している間は痛みを感じないのか、壁に激突していてもお構いなしだった。

 しかしこのままでは――。


「このままだと、アレックスの身が持たないわね」

 壁に何度も全身を打ち付けている上に、スケルトン・キラーや怪鳥の攻撃を多少なりとも受けているのだ。動きに法則性がないために今のところ直に当たっている様子はないが、この状態が続けば危険である。


「なんとか~止める方法とかって~ないんでしょうか~」

「! て、あんたが自分でかけたんでしょうが。それよりこの術、一体どれくらい持つの?」

「さっきのスリープと同じで~約十~二十分の間くらいじゃ~ないでしょうか~」


 たかが十分。されど十分。


 人間の身体というものは力を全力フルで継続的に出し続けた場合、個人差はあれども恐らく十分と持たないだろう。

 通常は脳が肉体の限界値を超えないよう、無意識下でセーブしているはずである。極端な話、身体が疲労しない程度の力を少量ずつ出力できれば、体力の続く限り長時間戦い続けることも可能なのだ。

 しかし今のアレックスでは正常な判断力がなくなっているため、それが期待できないのも確かだった。


 私は残りのスケルトン・キラーを倒しながらも、頭の中では対策を必死に考えていた。

 その時、アレックスの行動が目に入った。彼は中央の階段を駆け上がろうとしていたのだ。


 剣を振り回し、そのまま真っ直ぐに突っ込んでいく。先には当然リチャードがいた。

 気付いた時にはそのままスピードを緩めることなく、リチャードに迫っていた。彼は自身の掌から出した炎の竜巻を、向かってくるアレックスに目がけて放った。

 竜巻は反応するかのように現れたシールドで防御され真っ二つに割れると、正面から両脇に流れていく。勿論アレックスは無傷である。


 彼は一番上まで到達すると、リチャード目がけてジャンプした。

 剣を振りかぶったままのアレックスに対し、炎の盾を出現させるリチャード。


 そのまま上空から剣を振り下ろすのかと思いきや、いきなりアレックスは盾もろとも、リチャードの顔面を足で踏みつけたのだ。

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