第39話 エリスの作戦
自分でも不思議だった。
中位クラスであるリチャードと私たちとの力の差は歴然である。
確実に私たちのほうが負ける。
いや、弱音を吐いているわけではない。それが現実なのだ。
それが分かっていても、なお私には戦う余力が残っていた。
「我に従いし僕たちよ。汝、我の命を聞き給へ。汝、我の……」
唄が始まった。
エドは敵の攻撃を避けながらも、なんとか四隅の一角を確保している。
私は前方に立ちはだかると、攻撃からエドを守っていた。この場所ならば両脇には壁があるため、四方から敵に囲まれる心配はない。攻撃範囲も狭くなり、そのほうが援護し易かった。
と、その途中でスケルトン・キラーの動きに異変が起きた。
私たちの周りにいた数体のスケルトン・キラーが、仲間に攻撃を始めたのだ。
一瞬だが、こちらへの攻撃が止んだ。私はその瞬間を狙っていた。
「アレックス!!」
目の前にいる背中に向かって叫んでいた。
中位クラスというのは物理よりも術攻撃主体で戦う者が多いと、以前父から聞いたことがあった。接近戦で向かってくる敵に対しては前衛に下位クラスを使い、自らは後方で術を放ってくるのだという。
無論全ての中位クラスがそれに当てはまるわけではなかったが、遠方から私たちを見物しているだけのリチャード。
彼を見ている間に、ふとそんな父の話を思い出したのだ。
つまり「見物する」という理由の他にもう一つ、物理攻撃が不得手なために自らが直接手を出してはこないのだろうと、私は思った。
もし私の推測が正しければ、こちらにもまだ少しくらいは勝機があるのかもしれない。
リチャードの話が本当であるのなら、アレックスには術攻撃が効かないのである。混乱しているスケルトン・キラーの間を潜り抜け、その隙に敵の懐へ入り込むことができれば、リチャードに何らかのダメージを与えられるかもしれないのだ。
勿論これらは私の憶測であり、カケである。
私はこれに全てを掛けていた。
だが。
「……?」
アレックスは動かない。
私は内心焦った。
「ちょっとあんた、何してんのよっ!」
再び声を掛けてみる。だがその背中を見て、私はハッと気付いた。
(震えている?)
かなり尋常でない震え方をしている。
(ま、まさか……攻撃に当たってるんじゃ)
慌てて下に目線を移してみるが、血溜まりらしきものはない。怪我を負っているわけではないようだ。
震えが突然ピタリと止んだ。そしてアレックスはこちらを振り向くと、一気に私たちのほうへ移動してきたのである。
(なんでこっちへ来るの!?)
私は予想外の行動に驚き、動けずにいた。
近付いてくるアレックスを呆然と見詰めていると、頭上で剣を振り上げる姿が目に飛び込んできた。