第38話 今、できる限りのこと
起き上がったスケルトン・キラーたちは、即座に斬りかかってきた。
その上、上空からも針の攻撃。
いつの間に現れたのか、怪鳥は更にもう二体増えていた。
攻撃は物理攻撃のみで術攻撃はしてきていない。私たちには術が効かないとでも思っているからだろう。
私は未だに、英雄が実在していたとは信じていなかった。
確かにアレックスは魔物の放った術を、術文も使わずに跳ね返していた。
だが彼の言葉通り、本当に英雄の末裔なのか。そして「精霊に選ばれた」とは、一体どういうことなのか。まだ分からないことだらけだった。
しかし今はそんなことを考えている余裕はない。上空と地上の攻撃を避けるだけで、精一杯なのである。取り敢えず今は余計なことを考えるのは後回しだ。
「神風護壁! 雷風烈破!」
半年前の私とは違う。
その頃はまだ二つの技を同時に出すことはできなかったが、今はそれが可能となった。といっても、風属性のみではあるのだが。
怪鳥のほうは、あっさりと私の攻撃を避けつつ交互に針を仕掛けてくる。
アレックスはスケルトン・キラーと戦っているが、倒す度に復活していた。
それは当然、リチャードが原因だった。核を壊されたスケルトン・キラーへ、遠方から再び新しいものを補充してくるのだ。
骨を燃やし粉砕できれば何とかなるのだが、今の私の能力では核を壊すだけで精一杯である。
私は徐々に疲れてきていた。
精霊術士は精神力をかなり使う。それを維持するために体力も奪われる。このままでは消耗戦になってしまうだろう。
(あの核って、無くなったりはしないのかしら。このままじゃ埒が明かないわ)
少なくとも、無限にあるという代物ではないはずだ。
私はリチャードに目をやった。
リチャードは冷笑を浮かべながら、こちらをじっと見ていた。
背筋の寒くなるような、不気味な笑み。上からヒトを見下すような眼差し。
その気配、態度を私は知っている。
(! アイツ、私たちを弄んでいるのか!?)
考えてみれば中位クラスが本気になれば、私たちなど一溜まりもないはずである。なのに自身では全く手を下さず、下位クラスを自由に操って攻撃を仕掛けてきているのだ。
しかも物理のみの単調な攻撃パターン。
これはリチャードが大きな攻撃を、意図的に出させていないということに他ならない。じわじわねちねちといたぶるように、自分の掌で踊っている私たちを遠方から見物し、楽しんでいるのだ。
私はそのことにようやく気が付いた。
しかしそうなると長引けば、状況はこれよりも更に悪化することになるだろう。
何れはその『遊び』にも飽きてくるはず。そうしたら一瞬で殺されるのは目に見えている。
(冗談じゃない。こんなところでアッサリ殺られるなんて!)
リチャードの嫌らしい余裕たっぷりの顔を見ていたら、なんだか無性に腹が立ってきた。恐怖心よりも先にその感情が出るというのは、おかしな話だが。
「エド! コイツらを足止めできそうな術、何かない?」
私は後ろで悲鳴を上げながら逃げ惑っているエドに尋ねた。
「足止め、ですか~……コンフュージョン(混乱)なら使えますけど~」
「オーケー、なんでもいいわ。私が援護するから、その隙にかけちゃって。
アレックスは私たちが下位クラスを足止めしている間に、あの中位クラスへ向かうのよ!」
「了解した」
何処まで成功するかは分からない。
だがこのままアッサリと殺られるくらいなら、今自分のできる限りの能力を使って、最期まで抗いてみたいと思った。