第31話 説得
「何だ?」
肩越しに振り向いたアレックスは、相変わらず涼しげな眼差しをこちらへ向けてくる。
だがその眼差しとは対照的に、全身からは漲る熱い闘志を感じ取ることができた。やる気十分、といった様子である。
「ここは隠れて、一旦様子を窺ったほうがいいんじゃないかしら」
「言語道断! 戦わずして逃げるなど、俺には有り得ぬ選択肢だ」
予想通りの反応ではあったが、更に私は静かに諭すように、アレックスに向かって微笑みかけた。
「ええ、分かっているわ。当然戦うわよ。
でもその前に、この洞窟のもう一つの出入り口を調べたほうがいいんじゃない?」
「もう一つの出入り口? それは一体どういうことだ」
「あのスケルトン・キラーたちは、こちらの方向から来たのよね。けれど今まで通ってきた道には、脇道らしきものが一本もなかったわ。
そこでヤツらは一体何処から現れたのか、という疑問が生じてくるけれど、勿論答えは簡単。
それは今まで通ってきた道、或いはこの付近に出入り口が隠されている可能性が高い、ということよね」
「なるほど~やっぱりそうでしたか~。実は僕もさっきは~それを言おうとし~……ギャッ!?」
エドが突然短い悲鳴を上げた。私が足を思いっきり踏んで、その口を封じたのである。
先程の場所からここまでの距離は短い。その間にも洞窟の奥からは、響いている足音が大きくなってきている。今は余計な時間がなかった。
「ということは、スケルトン・キラーがどんな手段を使って出入り口を通っていたのか。現在の私たちには、その方法が全く分からないわけよ。
だからそれを探ってから追いかけてみても、遅くはないんじゃないかしら。
更にその先には当然、魔王が待ち構えていると思うし」
アレックスは私が話をしている間、何かを考え込んでいる様子だったが、話し終わるとそのままおもむろに口を開いた。
「うむ、確かにその考えも一理ある。ここでヤツらを倒したとしても、先へ進む方法が分からぬでは無意味だからな。
よし。では早速隠れて様子を見ようではないか」
アレックスはあっさりと、私の口車に乗ってきた。
勿論、魔物が新たな出入り口を開けるという保障はない。或いはそのままUターンし、また元の場所へ戻るだけかもしれない。
だがそんなことは二の次だった。今はこの場を切り抜けるのが先決である。
「それじゃ二人とも、あの辺りに固まるように立って」
私は二人に指示を出した。
この場所は岩壁に囲まれているだけで、隠れられるような障害物もない。だから私自らがその場所を作り出そうとしているのである。