第3話 精霊術
右腕を垂直に前へ伸ばし、掌をソレに向けながら意識を集中した。
ブレスレットに嵌め込んだ精霊石が、微かに振動するのを感じ取る。
私の「精神エネルギー」が集中している意識と共にその中へと流れ込み、同時に周囲の気も凝集してくる。
「烈風天駆!」
私から発せられた力ある言葉が合図となって、かざした掌から風を起こす。するとバサバサと音を立てながら、吊されたソレがはためいた。
今私は精霊術を使い、ソレを乾かしている最中だった。
『ソレ』とは即ち、私の着ていた服のことである。
浴室で自分の身体を洗うのと同時に服も洗濯し、脱衣所で乾かしているのだ。
『精霊術』とはその名の通り、精霊の力を借りて使用する術のことである。
風、火、水、地、光、闇。
この世界を創造したのが、それら精霊たちだと言われている。力は地上全土に行き渡っており、その恩恵でこの地は繁栄しているらしい。
精霊術士はその力を借りることによって、術を発動することができる。
そのためには勿論、厳しい鍛練が必要だった。
私も旅立つ前は同じ精霊術士だった父の元で修行をしていたのだが、次第に「もっと強くなりたい」という欲求に駆られていった。
父も私が生まれる前には腕を磨くため、各地を旅していたらしい。それ故、私も同じように旅に出ようと決意した。
各地には『精霊の社』と呼ばれるものがあり、それらを巡礼して回るのが今回の旅の目的でもある。
とは言っても、それらを巡れば特別な力や術を得られるとか、そのような理由で目的地を設定したわけではなかった。
勿論そんなものはこの世に存在しない。しかし『精霊の社』は各大陸に点在しており、世間的に最もポピュラーな修行方法として利用されているのである。
言わば、一種の儀式のようなものでもあった。