第28話 二人の関係
「い、痛いですよぉ~アレックスさん~」
抱き締められたエドはアレックスの腕の中で、苦しそうに藻掻いている。
「おお、そうかスマン。あまりにも感動が大きかったもので、つい……」
頭をポリポリと掻きながら、アレックスはエドから身体を離した。
しかし。
「ちょっとあんた、なんで泣いているわけ?」
この状況で泣くような理由などないはずなのだが。
「断じて泣いているわけではない! 涙は心の汗だと俗世間では言うではないか。これはあまりにも感動が大きかったために、大量の汗が噴出しているだけなのだっ!」
興奮しながら拳を振り上げて何かを力説しているようだったが、全く意味が分からない。それになんだかいろいろと、間違っているような気もするし。
「エドがこのように美しい楽曲を弾くことのできる、偉大なる演奏家だったとは。生まれて初めて聴いたが、益々素晴らしい! 今俺は猛烈に感動しているのだ!」
「あんた、今まで寝てたんでしょーが」
それでよく感動できるものだ。それともこの人、ワザと言っているのだろうか。この大袈裟な振る舞いは、そうとしか思えないのだが。
(しかも生まれて初めて……え?)
私はその言葉に、少し引っ掛かりを覚えた。
「アレックスって、今までエドの演奏を聴いたことがなかったの?」
「勿論です~。戦闘に参加していませんでしたし~。それに~僕とアレックスさんが知り合ったのって~ついさっきのことですしねぇ~」
「! ちょっと待って。あんたたち、ずっと一緒に旅をしていたんじゃなかったの?」
最初からこのパーティは、おかしいと思っていた。
剣士と吟遊詩人。
他に仲間がいるのなら話は別だが、この術士二人だけでパーティを組むなど、聞いたことがない。
二人の術の系統から考えてみても、バランスが取れているとはとても思えない組み合わせなのだ。これでは例え下位クラスを相手にしたとしても、簡単に殺られてしまうだろう。
私はこの二人のことを、今までずっと疑っていた。
実はアレックスが何処かの国の王子で、剣士というのは仮の姿。エドも吟遊詩人と名乗りつつも、本当はその従者なのではないのか、と。
或いは逆に、エドのほうが実は何処かの国の王子で、アレックスは剣士の格好をしているが、それも仮の姿。
本当は騎士様だが、エドが王子だということをカムフラージュするために、剣士と名乗っている。つまりアレックスは国王から勅命を受けた、エリート騎士団所属の騎士様なのではないのか、と。
多少性格に問題はありそうだったがそれは一旦目を瞑るとして、さっきもアレックスは俗世間がどうの……とか言っていたようだし、言葉遣いも偉そうなのでその確信を深めていたところである。
「俺は諸事情により、魔王をどうしても倒さねばならなくなった。しかし俺はパーティを組んではいない。
とはいえ相手は一振りの剣で大量虐殺をしていたと云われる、あの魔王。流石の俺でも一人で倒すのは難しい。
そこでとあるギルドへ入り、一緒に魔王を退治してくれる仲間を募っていたのだ」