第26話 追い詰められて?
徐々にこちらへと近付いてくる。
足音ではなく、馬の固い蹄の音だ。
「中位クラスの魔物に命令されてるから、中には絶対入ってこないなんて言ってたの誰よ」
私は文句を言いながら、横で待機しているエドを睨んだ。
「僕は別に~絶対に入ってこないなんて~言ってませんよ~?」
エドは全く動じずに、いつもと変わらず唄っている。平気な顔をしながら、ああ言えばこう言う男だ。
「エリス、君も灯りを」
「あ! うん」
アレックスに言われ、私は慌てて光属性の灯りを点けた。
「アレックス、まさかまた戦う気?」
「無論。同じ過ちを二度と繰り返さないのが、俺の信条だ」
(過ちって……)
私は既に怒る気にもなれなかった。この人と私は恐らく一生、相容れない存在なのかもしれない。
「来るぞ」
その声で仕方なく覚悟を決めたのだが。
「エリスさん、こちらからも来ますよぉ~」
慌てた様子のエドが私に話し掛けてきた。奏でている旋律も、些かテンポのいい曲調に変わっている。
振り向くと反対側の通路からも、音を立てながら何かが丁度現れるところだった。
「! あれは」
スケルトン・キラー。
一言でいうとすれば『骸骨兵士』だ。
剣と盾を携えたスケルトン・キラーが数体ほど、カタカタと音を立てながらゆっくりとこちらへ向かって歩いてきている。
「げへへ、見つけた」
「人間」
「人間は殺せ」
その声はケンタウロスのものである。いつの間にかヤツらも何体か、通路内に姿を現していたのだ。
それにしてもケンタウロスというのは、何故こうも下品な話し方をするのだろうか。あれだけの美しい顔立ちだと、逆に不愉快さ極まりない。
「でも、まずいわね。こんなところで術なんか放ったりしたら」
私は眉を顰めた。
狭い通路である。剣術が基本のスケルトン・キラーはともかく、遠距離攻撃のケンタウロスに矢を投げ込まれでもしたら、私たちはひとたまりもないだろう。
(アレックスには悪いけど、逃げる方法を探したほうが先決かもしれないわね)
その間にも私たちは魔物に挟まれ、じりじりと追い詰められていた。
しかしエドがここで、一歩前へ出る。
「ここは僕に~おまかせ、あ~れぇ~」