第23話 根性??
「では僕は、先に行ってますので~」
「えっ!?」
気が付けばエドが一人で、暗い洞窟の奥へと消えていくところだった。この吟遊詩人、逃げ足だけは速いようだ。
入口は炎の矢で阻まれ、私たちは奥へ逃げ込むしかなかった。
魔物たちに追い詰められているだけのような気もするが、既に逃げているエドも放ってはおけない。
私もその後へ続き、急いで逃げようとしたのだが。
「ちょっとあなた、何をやっているのよ!?」
入口へ顔を向けるとアレックスが剣を抜き、飛んでくる炎と格闘しているところだった。
「あなたも早く逃げないと、丸焼きになっちゃうわよ」
「俺はここで奴らを食い止める。だから君は先に行っているのだ」
多勢に無勢。
今は燃えさかる炎に阻まれていて確認はできないが、先程見た限りでは恐らく十体以上はいたと思う。一人で戦っても勝ち目がないことは一目瞭然だった。
父からは「無駄で勝ち目のない戦い方はするな。もしそのような状況に陥ってしまったなら、迷わず逃げろ」と教えられてきた。『逃げる』という行為自体も、立派な戦術の一つなのである。
「そんなことできないわよ。大体、あなた一人で何とかなるとでも思っているわけ?」
「無論だ。何故なら俺には『根性』という切り札があるからだ! 根性で乗り切ってみせる!!」
アレックスは右拳を前へ突き出し、真剣な表情でキッパリとそう言い切った。そこには寸分の迷いも感じられなかった。
(根性が切り札……て、オイッ)
この男、正気なのだろうか。現実的に考えてみてもそんなものだけで、簡単に窮地を脱することなど不可能だ。しかもこのような状況で、何故『根性』が切り札なのだろうか。わけが分からない。
そんなことを言っている間にも矢は次々と飛んでくる。気が付けば、徐々に奥のほうへと後退させられていた。
しかし私はアレックス一人をこの場へ残し、エドのように自分だけが逃げることもできなかった。
他人から見たら「甘い」、と言われるかもしれない。だが私は短時間で、最良な策を講じられるほどの修行経験を積んではいない。私はまだ半人前なのだ。
「そんなことどうだっていいから、早く!」
私は焦りながらアレックスの鎧を力一杯引っ張った。
だが相手は成人男性である。私のようなか弱い少女の力では、当然の如くビクともしない。
「どうでも良くはない! 何故ならこれが俺の……」
「いいから、来なさい!!」
私は有無を言わさぬ強い口調で一喝する。
彼は拳を振り上げて、なおも熱く何かを力説しようとしていた。が、今はこんなところで殺られるわけにはいかないのだ。
アレックスは怒った私の顔を見ると、一瞬驚いたような表情を見せた。そして急に何かに怯える仔犬のような目をしたかと思うと、「分かった」と小さく呟きながら私の後を素直についてきたのである。