第22話 洞窟の中へ
岩男(ロック・マン)。
大きな岩石をいくつも重ね合わせたような、巨大な魔物である。術攻撃が殆ど効かない上に自身の破壊力も凄まじく、人間などたった一撃だけで骨の髄まで砕け散るほどだ。
それが何処から現れてどういう訳だか、吟遊詩人を追いかけてきている。それも一体ではなく、五~六体ほどの集団だった。
無論こんなヤツらとは戦いたくない。私は逃げる手段を考えながら、素早く周囲を見回した。
この洞窟一帯は草木の全く生えていない空間で、隠れられるようなモノは何もなかった。が、一箇所だけそんな場所がある。
「早く、こっちよ!」
私は吟遊詩人に呼びかけた。
それは当然、洞窟の中だった。
私たちから見れば入口は大きく感じられるが、ロック・マンの比ではない。私たちは急いで中へと駆け込んでいった。
ズンッ…と洞窟内が揺れた。ぱらぱらと天井から小石も落ちてくる。
ロック・マンが体当たりしているのだ。しかし入口が狭すぎて、この中へは入って来られないようである。
その様子を奥のほうから確かめた私はようやく安堵し、その場へ座り込んでいた。これで一先ずは逃げることができたらしい。
「いや~、助かりました~」
ハープを鳴らしながら、吟遊詩人が呑気に声を掛けてきた。
「て、あなたのせいじゃないのよ。大体、何であんなモノが追いかけてくるわけ?」
この男とは初対面だったが、私はつい怒気の含んだ言葉を投げ掛けてしまう。この軽そうな態度が、私の神経を逆撫でするのだ。
しかし当の吟遊詩人は全く悪びれた態度も見せず、相変わらず唄うように私の問い掛けに答えてきた。
「実は~あなたたちの足が速くて、追いかけられなかったので~疲れたからちょっと休憩しようかと思って~そこら辺にあった椅子に座ったら~なんとそれがロック・マンの足で~まさかそこに、ロック・マンがいるなんて~思わなかったしぃ~……」
「ストップ! 分かった。もうそれ以上言わなくていいから」
頭が痛くなってきた。どうやらこの吟遊詩人に、説明を求めた私が馬鹿だったらしい。
「君たち、こんなところで何をしているのだ? 早く奥へ行こうではないか」
先に中へ入っていた剣士が、ひょっこりと脇から顔を出す。そうだ、元はといえばこの人のせいではないか。
「あの、ちょっと訊きたいんだけど」
「ん、なんだい?」
「えーと……その……」
剣士は透明感のある涼しい眼差しで、私を見詰めている。たったそれだけのことなのに、何故か胸がドキドキしてその先を言うことができなかった。
「そういえば~自己紹介がまだでしたね~。僕はエドワード・ライアン~。そしてあなたはぁ~?」
「エリス・フルーラよ~」
答えて、私は我に返った。吟遊詩人――エドの音楽に釣られ、つい唄いながら名乗ってしまったのだ。恥ずかしさのあまり、自分の顔が熱くなっていく。
「じゃなくって! 私はあなたたちに訊きたいことが……」
「うむ。俺はアレックス・ヴォングだ」
「いや、だから名前なんかどうでもよくって。私はただ、カタトス町に戻りたいだけなんだけど」
「でも魔物が~外でウヨウヨしてますよぉ~」
ロック・マンはまだ頑張っていた。下位クラス系は脳みそが単細胞でできているわりには、諦めがすこぶる悪いのである。
突然、風の切るような音が耳元でした。
足元には、炎を纏った一本の矢が刺さっている。続けて同様に矢が、次々とこちらへ投げ込まれてきた。
いつの間にかケンタウロスも何体か、入口付近に現れていたのだ。