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第19話 出会い

第2章 洞窟

 私は急ぎ足で歩いていた。

 日が暮れる前に、一刻も早くこの森を抜けたかったのだ。この場所でまた野宿をしたくはない。


 しかし私の願望とは裏腹に、いくら歩き続けても見慣れた樹木が延々と生えているだけで、魔物の気配さえも感じられなかった。

 森の奥深くにでも入り込んでしまったのではないか、という一抹の不安も芽生えてきた私は、立ち止まって周囲を見回した。


 何処までも続いている薄暗い森。色づいた木々の隙間からは、空で光輝いている日が見える。日がこの角度で見えるということは、今はどうやらお昼時のようだ。私の腹も丁度それを示していた。

 私は剥き出しになっている木の根に腰を下ろすと、ここで休憩を取ることにした。昼間ずっと歩き通しだったため、疲れていたのだ。

 一息吐いて水筒の水を飲もうとした時、突然背後から足音が聞こえてきた。


(! 魔物!?)


 私は咄嗟に、腰を下ろしていた樹木へ隠れる。

 昨日の魔物かとも思ったが、もしヤツらならば馬の蹄のような音がするはずだ。これは明らかに二本足の生き物である。


 草や落ち葉を踏みしめる音が、すぐ近くで聞こえてきた。木に登り、隠れている時間はなさそうだった。

(これは……最低でも二匹は確実にいるわね)

 耳を澄ませてその足音を聞いてみると、どうやら複数のもののようだ。


(取り敢えず、逃げなくちゃ)

 ここからでは、木の向こうにある高い茂みが邪魔していて、相手の姿を確認することができない。それに今動いたら、私の存在を気付かれる恐れもある。


 この場合は気付かれる前に行動を起こし、不意を突いて逃げるのが一番良い方法だ。

 私はそう判断して着ているローブを素早くめくると、腰に差している短剣を抜いた。


 剣術はあまり得意なほうではなかったし気休め程度にしかならないが、精霊術士としては護身用として一般的に持ち歩いているものである。

 私は敵が近くに来たら即座に剣を振り回し、相手が一瞬でも怯んだ隙に、猛ダッシュで逃走するつもりだった。


 茂みはガサガサと徐々に大きく音を立てながら揺れていた。敵はそれを掻き分け、こちらへ来ようとしている。

 私はタイミングをはかりながら短剣を両手で強く握り締めると、木の陰でゴクリと唾を飲み込んだ。緊張からか、一筋の汗が額を流れる。


「エド、もうすぐだ!」

「アレックスさん、待ってくださいよ~♪」


 声とともに楽器を奏でる音がしてきた。しかも二番目に話しているモノは、その音楽に合わせて唄っているようにも聞こえる。

 突如飛び込んできた緊張感のないその音で、私のほうが一瞬怯んでしまった。気付いたときには茂みの中から、敵が目の前に飛び出してきていた。


「おや? 君は……」

 主は私に気付く。

 私はその声でハッと我に返ると、目の前にいるモノを反射的に見上げた。


 それは私が今までに出逢ったことのないような、二十歳代前半程の美しい青年だった。


 目鼻立ちの良い、整った甘い容貌。

 綺麗に刈られた光沢のある銀に近いブロンドの髪に、きめ細かな白い肌。近距離から向けられる涼しげな眼差しは、吸い込まれそうなほどに鮮やかな碧色をしている。


「君はもしや、精霊術士ではないのかい?」

 形の良い、艶のある唇から発せられるその言葉も、低音で甘い響きをしていた。


 この顔に、この声。


 条件の揃っている男性に間近で見詰められたなら、女の子なら誰だってヘロヘロになるだろう。

 実際私も、頭の芯から徐々に自分が溶けていくような、そんな錯覚を覚えていた。何らかの術にでもかかっているかのように、目の前もクラクラする。


 と、突然青年の身体が動いた。そして。




 いきなり私を抱き締めるのだった。

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