第15話 包囲
ケンタウロスは確認できる範囲内で、他に三匹いた。合計で四匹だ。全員同じ顔をしている。
更にもう一匹、私の罠に掛かって木の根で身体を貫かれている者もいるが、もう既に絶命しているのでこれは無視して構わない。最初に悲鳴を上げたのは、多分コイツだろう。
周囲が薄暗くてはっきりとは分からないが、これ以外には仕掛けていた罠が発動した形跡はなさそうである。とはいえ罠系の術というものは、一つでも発動すれば成功といえるのだが。
大体の確認を終えると、私はこのまま静かに後退した。
相手は駿足である。見つかったら厄介だ。例え逃げたとしても確実に追い付かれる。
それにケンタウロスは一応下位クラスに属しているとはいえ、中位に近い魔物でもある。
実をいうと私は今回、ケンタウロスを生で見るのは初めてだった。故郷の村周辺では見かけない魔物なのだ。ここは故郷からそれほど離れてはいない距離だったが、地域が少しずれただけでも、生息する魔物の種類が若干違ってくる。
「人間だ」
声が聞こえる。
「人間が、ここにいるんだ」
「この術は前に見たことがある。人間のものだ」
下位クラスの魔物とはいえ中位に近い種族なだけあって、少しは頭を使うようだ。
「人間を捜せ! 殺せ!」
その号令で、ケンタウロスたちは一斉に左右へ散っていった。
このままでは、逃げる前に取り囲まれてしまうかもしれない。
そう思った私は素早く立ち上がり、なるべく音を立てないように注意しながら走り出した。
しかしケンタウロスたちの光は、私を外から囲むように散っている。その上、数もいつの間にか増えていた。もう仲間が応援に駆け付けてきたのだろうか。
(まずいわね)
既に手遅れかもしれない。完全に囲まれてしまっている。
内心焦りながら後退った私は、何かにつまずいて転んでしまった。
「……あれ?」
尻もちをついたはずだが、全く痛くはない。クッションの上に座っているかのようでもある。
「この場所」
触った手の感触から、私の下にあるのが落ち葉だということに気が付いた。
(そっか、ここはさっきまで私が寝ていた場所なのね)
私は落ち葉の一番盛り上がっている部分に、丁度座っている格好だったのだ。
「! もしかしたら」
突然思いついた私は立ち上がり、両掌で球を持つように少し放して合わせると、
「皓浮煌明」
その中心に光属性の球体を出現させる。それにより、辺りもぼんやりと明るくなった。
私は浮いている球を持ち上げるかのように、そのまま掌を押し上げた。頭上で放した光は、ゆっくりと空中へ浮き上がっていく。
「これなら何とかなるかもしれない」
私は光を見上げて照らされたソレを確認すると、すぐに両手を一回だけ叩いた。灯りはその音とともに、弾かれるように消える。
刹那。
「いたぞ!!」
その声で振り向くと、いつの間にか数体の光が背後まで迫っていた。
どうやら見つかってしまったらしい。