第14話 仕掛けた罠
その悲鳴で目が覚めた。
同時に草の擦れるような音と、慌ただしい複数の足音も聞こえてくる。
私は飛び起きて横に置いてあった荷物を掴むと、生い茂る草の陰に隠れて慎重に辺りの様子を窺った。
木々の隙間から、赤い揺れが幾つか見えている。
(敵? 罠に引っ掛かったのかしら)
私は地面を這うように警戒しながら、それに近付いていった。逃げるにしても、一応現在の状況は把握しておかなければならない。
近付くにつれ、複数の足音だと思っていたものが、馬の蹄の音だということに気が付いた。
(馬に乗っている人間? もしかして野盗のほうかな)
更に近付いていく。
間もなく暗闇から浮かび上がってきたモノは――。
端正な顔立ちをした、十三~十六歳程の美少年の姿だった。
切れ長の眼、すらりとした高い鼻に、少しウェーブの掛かった柔らかそうな髪。周囲に浮遊する赤い輝きの中から、その横顔が浮かび上がっていた。
私は灯りに照らされている美少年の横顔に、つい見とれてしまう。
そして華奢な裸体も同様に照らされ……。
(……ん? 裸?)
ここで、はたと気付いた。
今はそれほど暑くもなく、落葉植物の葉も落ち始めているような、どちらかといえば肌寒い季節である。
なのにこの少年は裸でいる。しかもこんな真夜中、こんな場所に、である。
違和感を覚えた私は、恐る恐る目線を下の方へと移動してみた。
さっきは暗くてよく分からなかったのだが。
(! ケンタウロス!?)
驚きで声を上げそうになったが、辛うじて言葉を飲み込んだ。
ケンタウロスとは、半人半馬の魔物である。つまりこの美少年の下半身は馬の身体だったのだ。
美少年……もとい、魔物に対して少しでも見とれていた自分にショックを受け、私は脱力してしまった。
(と、そうだった。こんなところで倒れている場合じゃなかったんだ)
私はすぐ我に返り、気を取り直して起き上がると、現在の状況を確認することにした。