第12話 二人の戦い
室内には麦や豆類、野菜などの入った大きな袋や箱がいくつも天井高く積み上げられている。晴れていて明るい屋外とは対照的に薄暗く、籠もっている空気もひんやりとしていた。
ここは村で採れた穀物や野菜などを保管している、貯蔵庫である。
私は入口の重い扉をそっと細く開けると、外の様子をうかがった。
父と剣士はすぐ目の前にいて、背中を向けて並んで立っている。
「ウィルテルさん、ヤツらはどの程度まで減っているんですか?」
「さっきの報告では、全体的にざっと二十匹前後まで減らしたらしい。俺のほうはそれならなんとかなるが、君はどうだ?」
「俺もそのくらいなら……。できるなら集団で来て欲しくはないですけどね」
「同感だ」
(もしかして、待ち伏せ?)
二人の会話から私は確信した。
ヴォーウルフたちは、村の食料があるこの場所を最終的に狙っている。
倉庫には小動物しか通れそうにない狭い天窓があるだけで、出入り口は私が入ってきた一箇所のみ。それにこの建物は、村の大事な農作物を保管しているだけに、多少の衝撃で壊れるほど柔な造りではないはずだ。
となると、この出入り口さえしっかりと押さえられれば、ヤツらがこの中に入ってくることはない。
二人が会話をしている最中、突然この敷地を囲んでいる塀が爆砕した。それも左右同時二箇所である。
その向こうから現れたのは、予想通りヴォーウルフだった。左に二匹、右に三匹いる。
「どうやらお客さんのようだ」
二人は左右に分かれ、それぞれの方角に駆けていった。
剣士は右の三匹へ斬りかかっていく。
正面から襲いかかってくるヴォーウルフの爪を大剣で弾き返しながら、横から向かって来たもう一匹のほうも足で蹴り飛ばした。
その反動で身を捻りつつ、更に後ろから襲ってきた別の爪も腰を落としてかわし、流れるような動作で振り上げるように身体を斬っていった。
剣士は余程の手練れなのか、見るからに重そうな大剣を軽々と使いこなし、同様に他の二匹も、あっという間に片付けていく。
「爆砕針斬!」
父は地面に手をつくと、術を放った。
すると対象の足元が盛り上がり、数本ほど先の尖った土柱が勢いよく地表に飛び出してくる。地属性の遠隔系術である。
一匹は簡単にそれで串刺しになったが、飛び上がったもう一匹には躱されたようだ。
ジャンプしたヴォーウルフは、そのままの体勢で爪をクロスさせるように振り下ろすと、十字形に交差した光の刃を父へ向けて放った。
「神光護壁! 光射刺箭!」
父はそれを光属性の壁で横に受け流しながら、光の矢も数本同時に出現させた。
空中へ飛んだままのヴォーウルフは避けることもできず、同様に串刺しになる。
術は同属性同士なら、同時に別の技を使用することも可能なのだ。勿論それには技術と鍛練が必要である。
父と剣士が戦っている間にも別のヴォーウルフが壁を乗り越え、こちらへ集まってきた。私が見たところ、十匹以上はいるようだ。
「ジェット君、ちょっといいか」
父はそれらと戦い始めた剣士を呼び止める。
「なんでしょう」
「こいつらをこのまま一匹ずつ倒していくのもいいが、それだと効率悪いだろう?」
「! なるほど。なら一気に、せん滅しましょうか」
剣士は爪を避けながらそう言うと、ヴォーウルフの輪の中から数歩後退し、持っている大剣を目の前へ掲げた。柄に嵌め込まれている精霊石も鈍く光り、精霊紋が浮かび上がってくる。
「斬炎!」
剣士が言葉を発すると、その刀身に炎が纏った。