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ゼロクエスト 〜第1部 旅立ち  作者: 鈴代まお
第1章 始まり
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第11話 父の仕事

「最初はどこからにするか。頭か? 足か?」


 ヴォーウルフの呟き声が聞こえてきた。どうやら最初に食べる部分について、思案しているらしい。

 恐らくヴォーウルフには私の首をへし折るなど、容易いことだろう。

 この隙になんとか脱出方法を考えなくてはいけないが、声を出すことができなければ術文も唱えられず、精霊術を使うことが出来なかった。


火炎激槍ファイア・ヘフティ・ランス!」


 その声とともに首を絞めていた手が外れ、私はそのまま地面へと投げ出された。

 さっきまで絞められていた箇所が急に緩んだためか、一気に空気が気管へと流れ込み、激しく咳き込んだ。苦しかったが起き上がって見てみると、炎の槍に貫かれたヴォーウルフの身体が、燃えながら地面に突き刺さっていた。

 勿論、術を放ったのは私ではない。


「エリス!!」

 私の名を呼び、大きな建物の中から父がこちらへ駆け付けてきた。


「大丈夫か!?」

「う……うん」

 まだ咳は止まらなかったが、なんとか返事ができるくらいには治まってきたようだ。


「それより何でお前がここにいるんだ! ちゃんと避難しろと、言っておいたはずだろう!?」

「だって……家の近くで火が見えたから、それで心配になって……そしたら何故かこんな場所に出ちゃって……」

 私が苦しい言い訳を言うと、父は途端に呆れたような顔をした。


「お前……また迷子になったのか」


「迷子って私、もうそんな年齢じゃないわよ」

 ただ、家の方角を探していただけである。


「ソーマはどうしたんだ? 一緒に避難したんじゃなかったのか?」

「避難所でハンナおばさんに会ったから、預けてきた」

「ったく、お前という奴は……!」

「だって家が燃えるの、嫌だったんだもん」

 私は口を尖らせた。父たちと一緒に戦えないのなら、せめて自分の家くらいは守りたかったのだ。


「家が燃えたらまた、新しく建て直せば良いだけのことだ。だがお前は違うだろ?

お前の命はこの世でたった一人、掛け替えのない大切なものなんだぞ。それを忘れるな」


 父が続けて私に説教をしようと口を開きかけた時、

「ウィルテルさん、今の音は……」

 最初に父が出てきた建物の影から、もう一人現れた。


 私よりは若干年上か、二十代半ば程には見える男性だった。軽装備ではあったが大剣(グレートソード)を肩に担いでいるところから、剣士であることは一目で分かる。

 日焼けしていて程良く筋肉のついている引き締まった身体に、隙のない鋭い眼差し。無造作に伸びた長い黒髪をバンダナで留め、全体的にワイルドな雰囲気も醸し出していた。


「一匹、我々の予想よりも早くここに到着したヤツがいたのでね」

 父は近付いてきた剣士に向かってそう言うと、足元で黒こげになっているヴォーウルフを一瞥した。


「もう最初のヤツが来たのか。だとしたらそろそろ……」

「そうだ。すぐ近くにいる」

「ところで、その女の子は誰です?」

 剣士はここで私に気付くと、父に尋ねてきた。


「俺の娘だ」

「それが、なんでここに?」

「まぁ……その、いろいろあって、ここまで来てしまったようなんだが……」

 父は何故か言葉を濁しつつ、答えた。


「ともかく、エリスはここに隠れていろ。いいな!」

「? うん」

 私は父に促されるまま、大きな建物の中へと入っていった。

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