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ゼロクエスト 〜第1部 旅立ち  作者: 鈴代まお
第1章 始まり
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第10話 初めての戦い

 私は急いで自宅に向かっていた。


 ……はずだったのだが。


「あれ?」


 立ち止まり、辺りを見回した。

 この近辺はまだ戦闘区域にはなっていないのか、町並みが保たれたままだった。目の前には周囲の民家と比べると、一際大きな見覚えのある建物が建っている。勿論、人気などは全くない。


「あれ、ええと……うーん?」


 私はこの二股になっている分かれ道で立ち往生していた。

「ウチって、どっち方向だっけ??」


 呟いた途端、脇に続いていた塀が大きな爆発音とともに、目の前で砕け散った。私はその音にビックリして、その場で思わず尻餅をついた。


「ここだ、ここだ。食いモンは。オレが一番のりだ」

 その崩れた場所からひょっこり顔を出したのは、全身毛むくじゃらで大きな耳をしたオオカミ男。ヴォーウルフだ。


「おンや? 人間だ。コイツ、他のよりうまそう」

 ヴォーウルフは見上げる私に気付くと、大きな口から鋭い牙を覗かせてニヤリと笑った。そして見るからに粘りのありそうな半透明の液体を、隙間から滴り落としている。


(ゲッ。キモ……)

 ヴォーウルフもそうだが、私は魔物をあまり間近で見たことはない。しかし改めて見てみるとどうやら私には、生理的に受け付けないものらしい。


 ヴォーウルフは自身が崩した塀を、大きな身体のわりには軽々と跳び越えてきた。同時に鋭い爪をこちらへ繰り出してくる。

 私はすぐ我に返り、二、三歩後退してそれをかわすと、素早く体勢を立て直した。


火炎砲弾ファイア・バル・カノン

 ヴォーウルフに向かって手をかざし、力ある言葉を発する。

 私が放った火の弾数発は、ヴォーウルフに当たると爆発した。にもかかわらず爪を振りかざし、尚もこちらへ接近してくる。


 私は間合いを保ちつつ、さっきと同じように術を数発放った。

 接近戦ではこちらが不利だ。精霊術は接近戦にはあまり向かない術である。


(コイツ、なんて頑丈なんだ)

 術がまともに当たっているはずなのだが、敵はなかなかしぶとく倒れそうにない。

 とはいえ確実に少しずつだが、ダメージは与えられているようだ。全身焼け焦げ、こちらへ向かってくるスピードも落ちてきている。

 所詮は下位クラスの魔物である。それもヴォーウルフ一匹程度なら、私でさえも十分に倒せるはずだ。このままいけば、こちらが負けることはないだろう。


「お前、めんどうくさい」

 続けて振り上げた爪の先には、光るものが見えた。

「!?」


 私は異変を察知し、考えるよりも先に身体が動いていた。

 だがヴォーウルフは、私が言葉を発する前に爪を振り下ろす。その軌道を描いた光が刃となり、速度を上げて私に向かってきた。


神風護壁ヴィン・マオ・デュウ!」

 私の発動のほうが一瞬早かった。光が当たる寸前で、防御術が完成したのである。


 刃は防御壁に当たると、塀や近くの民家を切り裂きながら飛んでいった。もし術が間に合わなければ、私もあのようになっていたところだ。


 しかし直接当たっていない私でも、その反動に押されて背後へ吹き飛ばされていた。仰向けで地面へ倒れてしまい、すぐに起き上がろうとしたのだが。

「!? く……っ」


 いつの間にかヴォーウルフに正面から喉元を掴まれ、身体ごと宙づりにされていた。

 身動きが全く取れず、藻掻く度に尖った鋭い爪が首に食い込んできて痛い。喉も締め付けられ、息もできなかった。


「やっぱり、うまそうだ」


 その声に薄目を開けてみると、ヴォーウルフが間近で私を見上げ、ヨダレを垂らしながら舌なめずりをしていた。魚の腐ったような生臭い息も吐き出している。


(だから、マジでキモいんだっつーのっ!)


 首を絞められ声の出せない私は、心の中で悲鳴を上げた。

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