第1話 最初の町
第1章 始まり
『―――――の目覚めが迫っている』
『あなたには―――の義務があります』
『そしてあなたに―――を託しましょう』
一筋の光が閉じた瞼に当たり、男はその眩しさで目を開けた。
(今のは……一体??)
上体を起こすと、まだはっきりとは映らない眼を無理矢理こじ開けて辺りを見回してみる。
クローゼットに鏡台。窓。自分が今いるベッド。
いつもの自分の部屋だった。当然他には誰もいない。
(なんだ夢か)
男はゆっくりとベッドから降りると、そのまま窓へと向かった。
カーテンを勢いよくスライドさせて開け放つ。それに伴い、外から入り込んでくる草の匂いの混じった空気と風と光が、男の顔をやさしく撫でた。
男にとっては実に気持ちの良い、清々しい朝の目覚めだった。
そして彼はこの時にはもう既に、先程見た夢のことなどきれいサッパリと忘れているのであった。
「や、やっと着いた……」
私は安堵感からか、その場にへたり込んでしまった。
背後を通る通行人たちが不審者でも見るような目付きで、薄汚れてボロボロになった私を見ながら通り過ぎていく。
だがそれは今の私にとっては全く気にならなかった。ようやく目的地に着いたということだけで、胸がいっぱいなのである。
実家のあるハイゼン村から旅立って一週間。
ここまでの道のりは長かったような気がする。
途中で魔物や野盗に襲われたりもしたが、隣にあるセフォネ町の『旅人たちの館(トラベラーズギルド)』前に無事辿り着くことができたのだ。
感動で涙も出そうになったが、しかしここで感慨にふけっている場合ではない。
私はようやく起き上がり、入口のほうに顔を向ける。
だが。
「へ? ……あれ?」
ここで初めて気が付いた私は、入口横に掲げられている看板の文字を改めて読んでみた。
「トラベラーズギルド……カタトス町支部!??」
ビックリして、大声で叫んでしまった。
通りすがりの通行人たちはその声に驚き、数人ほどこちらを振り向いたようだったが、私はその場に固まったままでいる。
「な、な、なんで? カタトス……カタトス町って……ここはセフォネ町だったんじゃ……」
私は愕然とした。ここがカタトス町内だということは、思いも寄らないことだったのだ。
カタトス町は、故郷のハイゼン村から二つほどの町村を過ぎた先にある、比較的大きな町だった。しかもセフォネ町とは反対方向。
一体何処をどう間違って、こんな先まで来てしまったというのだろう。
私はしばらくその場に座り込んで呆けていたが、やがてゆっくりと立ち上がった。
膝に付いた土埃を手で払い落とし、肩や服の汚れも軽く叩いて払った。鏡が手許にないから確認はできないが、私自慢の肩まである栗色ストレートヘアも手櫛で整える。
「ま、ギルドなんて、何処でも一緒よね」
私は持っていた荷物を背負い、独り言を呟きながら何事もなかったかのように、中へと入っていった。
例え意図した目的地に辿り着けなかったとしても、ギルドなど何処の町にでもあるものだったし。
最初はかなり驚いていたが、冷静になってよく考えてみるとカタトス町のギルドでも全く問題はない、ということに途中で気が付いた。むしろこの町のほうが規模も大きいし、どちらかといえばそのほうが良いに決まっている。
ということでその辺りのことは、あまり深く考えないようにしよう。