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Hell The Black  作者: 那雲
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魔女と呼ばれし……

二日後。

吹雪は止み、外に出られるまでに天気は回復した。

街の男たちは家の周囲に降り積もった雪を取り除く作業に追われ、女たちは食べ物を仕入れに買い出しに店へと赴いていた。

吹雪の激しく吹きつける風の音から一転、温かい笑い声や人々の雑談のする、賑やかさを取り戻した街の中を、険しい顔をした兵士たちが徘徊していた。

「ちょっと、そこの兵士さん」

杖をついた一人の老婆が、兵士を呼びとめる。

手招いて老婆は、身を屈めるよう兵士に手で指示を出した。

「どうしたんだい? 何かあったのかい? あたしゃ何かあった何て誰からも聞いちゃいないんだけどねぇ」

「ヘル・ザ・ブラックという殺人者がこの街にも現れたんですよ。あの王都で有名な、地獄の使者が」

「まあ」

老婆が可愛く口を覆い、目を丸くして言う。

しかし、老婆の表情をよく見ると本気で驚いているようには見えなかった。

どちらかというとこの事件をどこかおもしろがっているようにも見える。

「おばあさん、人が一人死んでいるんですから、おもしろがっている場合じゃありませんからね。おばあさんも気を付けるんですよ。ヘル・ザ・ブラックに出会ってしまって殺されないように」

「はいはい。わかっとりますよ」

老婆は兵士の言葉に杖を振って返事をした。

やれやれとでもいうように兵士は首を振って、その場を離れ仲間のもとへと戻っていった。

老婆は兵士たちの背を見送ると軽快な足取りで、街からやや離れた自分の家へと向かった。

街を抜けてしばらく歩けば、丘の向こうに一人で住むには、大きすぎると言っていい家が見えてくる。

この家には自分一人しか住んでいないが、家の周囲の雪かきは済まされていた。

街の男衆は、自分の家で手一杯のはずだから、彼らではない。

老婆は家に着くと、扉を開けて暖炉に火を点け、薪をくべた。

冷え切っていた家の中にじんわりと温かい空気が広がり始める。

「あー、寒い、寒い。あんた、暖炉に火も点けないで寒くなかったのかい?」

老婆は背後の暗闇に声を投げかけた。

「あんたが外に出ているのに、暖炉に火が点いていてはおかしいだろう」

涼やかな鈴の音と共に暗闇から、顔に面をつけた人物が進み出てくる。

「そんなこと誰も気にしやしないよ。街外れに住む頭のおかしなクレアばあさんのことなんかね」

「あんたがおかしいだって?」

面の男は短く鼻で笑った。

「あんたは魔女と呼ばれているようだが、別におかしくなんてないだろう。あんたのような人間がおかしいと言われるなら、世の中みんなおかしな人間ばかりだ。それに街の人間はそうは言ってるが、あんたのこの薬の知識にだいぶ頼っているだろう。さっきも一人女が来ていた。あんたがいないからどうやら帰っていったようだが」

面の男はぐるりと室内を見回した。壁のあちこちに吊るされた草花があり、戸棚には、煎じた薬や薬草の粉などが保存されている。

この国は、国の中心部つまり王都から離れていくほどに、王からの恩恵は薄れていく。そのため、王都には最新の様々な物品や薬、機械などがあるが、それらは地方にはほぼ存在しない。王都には貴族たちが集中しているため、それらのほとんどが彼らのためだけに使われるのだ。だから、地方の人間たちは昔の知識に頼るしかないのだ。

「おや、今日は随分喋るねえ、あんた」

老婆は面の男の言葉に何の反応も示さずに暖炉に再び薪をくべた。

沈黙が続いた。

「今日、街であんたの話を聞いたよ」

先に静寂を破ったのは老婆だった。

老婆が静かな声で言う。

「それで?」

「ヘル・ザ・ブラック、あんたはとんでもない男だよ……まったく」

老婆は揺れる火を見つめながら呟くように言った。

「あんたが何をしようと私は構いはしない。城に報せるなり、街の人間に報せるなり好きなようにすればいい。私は私の思うようにするだけだ」

そうヘル・ザ・ブラックは椅子に座りこんだ老婆に言い放つ。

「あたしはもうこの国で、七十年以上生きてきたよ……あたしゃねぇ、ずっとこの国が嫌いだったよ……先々代の王もひどい政をしてねぇ……ただね、先代の王様の時代だけはこの国にいて良かったと思える日があったんだよ……」

椅子を前後に揺らしながら、老婆は静かに語る。

「あたしが一度でもこの国が好きだと思えたのは、あの王様のおかげさ……だからこそ、あたしゃ今のこの国が大嫌いだよ」

老婆は目を閉じる。

「……だから、別にあんたが何者であろうと何をしていようとそれを知ったところで、あたしゃ何もしやしないよ。あたしは今のこの国が大嫌いなんだ。だから、あんたがこの国を恐怖に陥れるような騒動を起こしているなんて、あたしにとっては嬉しいかぎりだよ」

老婆が皺を深くして笑った。

「……」

短い沈黙の後、ヘル・ザ・ブラックは老婆に背を向けて小さく呟いた。

「今の国を好む人間なんて、ごく一部の人間しかいないさ」

そう呟くと、彼は闇の中へと消えていった。

次回は、地獄の使者さんが動く…?かもしれません。

あくまで予定ですけど (-_-;)


更新不定期ですので、そこのところご了承ください。

中編程度の作品予定です。

これも、あくまで予定です… 


予定ばっかですね、この作者。

すいません

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