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1.忘れられたブルーサファイア

 古い友人が、幼い子どもを連れてきた。

 穢れを知らない上質な革靴に、傷ひとつない白い肌。この世の人間とは思えない瞳の色で、俺はすぐにその子どもが何者かを理解した。なぜ彼が友人と繋がっているのか疑問に思ったが、その屈託のない笑顔を見て、俺はあっという間に彼の虜になった。

 彼は言った。「カーソンさん…ですよね?」なんと、俺の名を知っているのか! 俺はますます彼に惹かれた。

 続いて彼はこうも言った。「人の感情がお好きだとか」

 Oh no...なんということだ。彼は俺についてなんでも知っているようだ。


 俺は確かに人の感情が好きだ。喫茶店を開いたのも、色々な人の心を知るためで、今までたくさんの人が俺に話をしてくれた。

「この間妻に怒られたんだよ、褒めすぎだって。こっちは全部本心だってのにな」「見て、友達からのプレゼント。素敵でしょう?」「今日はあの人の命日なの。元気にしているかしら」「兄ちゃんが帰ってこないんだ。俺のこと嫌いになったのかな…」「聞いてよ! お父さんがさ!」

 どれも俺にとっては面白い話で、俺は人々の話を聞くのが大好きだった。


 そんなある日の夜、俺は人の感情を瓶に詰めた。

 宝石店で宝石を買って、それを瓶の中に入れた。俺にとってその宝石は〝人の心〟そのものだった。

 人の心は宝石のようにとても貴重で、価値のあるものだから。

 それが棚にずらりと並ぶようになるまで、そう時間は掛からなかった。俺は喫茶店の売り上げを全て注ぎ込んで、ひたすら宝石(人の心)を集め続けた。


 彼が来たのは、宝石収集のための資金が底をつき始めた頃だった。

 彼は言った。「僕の心はこれかなぁ」ポケットからブルーサファイアを取り出して、俺の手のひらに置いた。どうやらくれるらしい。だが、この大きさと透明度なら、かなりの額になるのではないだろうか。受け取っていいのか不安に思ったが、彼の爽やかな笑顔で、俺はまた彼の流れに飲み込まれてしまった。

 ブルーサファイアを大きな瓶に入れ、よく見える場所に飾ってみる。すると、彼はたいそう嬉しそうに喜んでくれた。その時、俺は思った。人の心の価値は、他人が決めて良いものではないのだと。


 それから数年が経ち、再び彼が来た。今度は友人とではなく、若い男を連れて二人で。彼は俺のことを覚えてくれていた。

 俺はもう宝石を集めてはいなかったが、せっかくなので、ずっと棚に飾っていたあのブルーサファイアを見せた。棚の真ん中で一段と煌めくその青は、昔と変わらない光を纏っていた。

 彼は言った。「私はあれから随分と変わってしまいました」「今の私の心は、この宝石の原石にすらなれないでしょう」

 彼の目は笑っていなかった。それどころか、全ての感情が欠落しているように見えた。気のせいだろうかと瞬きをしても、彼の表情は変わらなかった。

 あの屈託のない笑顔を浮かべていた彼の変わり果てた姿に、俺は何も言えなくなった。

 

 何が、彼の心を奪ってしまったのだろう。いや、壊されたのだろうか。どちらにしても、彼が望んだ結果ではないだろう。

 俺はブルーサファイアを彼に返した。俺が奪ったわけではないけれど、彼の心の一部かもしれないそれを、返さずにはいられなかった。

 宝石を受け取った彼は、不完全な笑みで席についた。「マスター、とびきり苦いコーヒーを一杯」注文を聞いて、俺はこの店で一番苦い豆を取り出した。


こんな感じで、数千字くらいの話をゆるく書いていきます。投稿も不定期なので、たまに見よ〜くらいで構えていただければと思います。本編の方も、まだの方は是非読んでみてください。

カーソンさんは本編でも出てくるかも…?

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