第9話
時は小倉駅の事件において、男が爆破された直後に遡る。
「あ~あ、迷いなく爆破させちゃうなんて、相変わらず酷いことするよねぇ。確か彼、信仰心の深いルクシャ・ハーナの信者だったんじゃないのぉ?」
宙に映る現地の映像を眺める二つの人影。
癖っ毛のある薄紅色の髪の少女は、隣に立つ金髪長身の男を流し目で見る。
「狂信者は後々邪魔になるだけだ。盲目的な信仰に意味はない。そういう愚か者は早々に切り捨ててしまった方が目的の為にも無難だ。そもそも、我々はルクシャ・ハーナを復活させることが目的ではなく、あくまでも頂点捕食者としての力を利用することだ」
「酷~い人ぉ。元の教主を爆破させて、自ら教主にすり替わるなんて趣味が悪~い人は、人の心が無いんだねぇ?」
「それを貴様に言われたくないな、アンネリーゼ」
「それは心外だよぉ、アレクシス」
互いに嫌味を言い合いながら、現地の映像の行く末を眺める。
「件の勇者君は思ったよりも弱そうだねぇ? あと聖剣フィニステラだっけ? アレも大したことなさそうだねぇ」
アンネリーゼは前髪を弄りながら言う。
「近いうちにリファ・メルクストーリアが一度向こうに戻って調べようとするだろう」
「確かにね。あとイケメン騎士のノヴァク・ノエイランだっけ? 彼も同行するんじゃな~い?」
「問題ない。予定通り、信者共は近々切り捨てる。ルクシャ・ハーナの権能についても粗方理解した。折角だ、その二人には無駄足を踏んでもらうとしよう。勇者も我々が警戒するほどの存在でもない。だが――」
映像に映る少年――秋雨の姿を見ながら、アレクシスは目つきを鋭くす。
「奴について……いや、五行神家については警戒する必要がありそうだ」
本来は奏多たちを敵対存在として仮定していただけに、秋雨たち五行神家の存在は想定外だった。
「だったら、その役目を私が担っても良いかなぁ?」
「…………何を考えている?」
「うーん……ちょっとしたサプライズ~ってヤツかなぁ。ほら、秋雨って男の子の行動原理って、周囲を巻き込まないところに比重を置いてそうじゃない?」
爆破した男が召喚した下僕が野次馬に向かっていった時、秋雨は動き出した。
それは神水守家の当主としての役割を秋雨自身が全うしたに他ならない。
だが――、
「怠~い雰囲気を醸し出していながら、周囲の被害は見過ごせない。黙っていれば、見逃していれば、彼の事情がバレることもなかったのに……勇者君には弱いだなんだ口でいろいろ言っていたみたいだけど、結局その本質は自身の事情に巻き込みたくない」
アンネリーゼはスラスラと自身の推測を述べていく。
その表情は新しいおもちゃを見つけた、子どものようだった。
「また、禄でもないことを考えているな。時折、お前が恐ろしく感じるよ、アンネリーゼ」
「酷~い。ちょ~と遊んであげようって思っているだけなのにぃ~。それに信者を爆破したり、教祖になった信者ちゃんを切り捨てちゃうアレクシスにだけは言われたくないかなぁ?」
「進化において弱者は淘汰される。信仰によって己を保とうとする弱者なぞ、総じて次の時代に必要ない」
アレクシスのその言葉を聞きつつ、ゆったりとした足取りで周りを歩き始めるアンネリーゼ。
「この世界、或いは向こうの異世界。人類という生命体としての強度を次のフェーズへ押し上げる事こそが、私たちの目的だもんねぇ。だ・か・ら、これはちょ~っとした試練みたいなもの」
映像に映る秋雨に熱い視線を注ぎながら、アンネリーゼは舌なめずりする。
「さぁて、身近な人が理不尽にも死んじゃった時、彼はどんな表情をするのかなぁ?」




