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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉


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第6話

「俺たちが弱いだって!?」


 先ほどまで顔を青くしていたのとは打って変わり、少しばかり怒った様子で奏多が口を開いた。

 志乃とリファはまだ動く様子は見せない。

 流石は皆を率いていた勇者と言えるだろう。


「俺たちは異世界で多くの修羅場を潜り抜けてきた。何度も挫け、折れそうになりながら戦い抜いた。そんな俺たちを弱いと罵るのはやめろ!」

「罵ったワケじゃないさ。俺はただ事実を述べているに過ぎない」


 秋雨は答える。

 奏多が異世界で積み上げてきたものを否定され、躍起になっているのもあるのだろう。

 何も知らない秋雨に否定され、弱いと切り捨てられる。

 奏多は我慢ならなかった。


「取り消せ!」


 奏多は叫ぶ。

 周囲の視線が集まる。

 異世界の勇者・奏多――その名と姿は全国に通っている。

 誰もがこの場の流れを観察している。

 秋雨は「はぁ~」と溜め息を吐いてしまう。

 周囲の人々に会話の内容全てを聞かれているワケではない。ただ、世の高感度を鑑みれば、秋雨が奏多に難癖をつけているようにも捉えられかねない。


「取り消すも何もなぁ……」


 腕を組み、秋雨は天を仰ぐ。

 と、ここで静観していた遥が口を挟む。


「喧嘩は程々にしなさいな。それと秋雨ちゃん。奴さんがお目覚めやね」


 秋雨の足下に転がっていた男が身を捩っている。


「どうも、いい夢は見れたか?」


 未だ怒り心頭の奏多を他所に、秋雨はしゃがみ込み男へと語りかける。


「……最悪な気分だ」


 男は吐き捨てるように言う。


「そうか。そうだよな。じゃ、吐くもん吐いてもらおうか」


 秋雨は声音を下げ、男へ問う。


「お前たちの世界の頂点捕食者(エルダーワン)……ルクシャ・ハーナだったか? 目的は何だ?」

「奪われたものを取り返す。それの何が悪い」

「なるほど。お前たちはそういう認識なのか。だが、事の発端はそのルクシャ・ハーナがこちらに侵略を進めたことが要因だ。過去の五行神家が封印を施すことで事なきを得たが、それなりの被害は出たという話だ」

「……ルクシャ・ハーナ様の慈悲がわからぬ愚者め!」


 男は射殺さんばかりの眼光を秋雨に向ける。

 そんな視線を向けられたところで怯むほど秋雨も軟弱ではない。

 そよ風を受けるように気にも留めない。


「お前が召喚した下僕は、間違いなく封印されている頂点捕食者(ルクシャ・ハーナ)の権能だ。どんな手を使って行使している?」

「……話すと思うとでも?」

「思っていないさ。ただ、素直に吐く方が苦しまずに済むだけの話だよ」


 この男が使用した下僕召喚の権能。

 召喚された下僕自体は随分と格の下がったものであり、異世界組は兎も角、秋雨にとっては足止めにもならない存在だった。

 これがただの召喚魔法であれば、秋雨としてもどうでもいいもの。

 だが、それが頂点捕食者の権能となれば話は変わる。

 今は弱くとも、練度が上がれば間違いなく脅威となりえるからだ。


「ふん、拷問でもするか? ルクシャ・ハーナの信仰の前に無意味だ」

「心配しなくても拷問はしないさ。ただ読み取るだけだよ。ま、死ぬほど痛いらしいけどな」


 秋雨は男の頭を右手で鷲掴みにすると、術を発動する。


 水之業・陰型――水泡記視(すいほうきし)


 元来は場の水に刻まれた記憶を読み取る術であり、痕跡探しや追跡に用いることが主となるもの。

 秋雨はこの術の範囲を広げ、人体の水分から対象の記憶を読み取ることを可能とした。

 だが、その代償として術を掛けた対象へ激痛を与えるものとなってしまった。


「ギィィォヤアァァァ⁉」


 男の突然の絶叫に周囲がギョッとする。


「……それなりの人数で渡って来たのか。リーダー各は三人。男が二人、女が一人――」


 男の絶叫を他所に秋雨は淡々と読み取った記憶を口にする。

 そんな様子に我慢ならなかった奏多が、男の頭を鷲摑みしていた秋雨の手を引き剝がす。

 すると男の絶叫は止み、白目を剥き、口から泡を吹いて男は再び意識を失う。


「邪魔をするなよ、庄司」

「いいや、邪魔をさせてもらう。こんな残虐な手法は許されない」


 奏多は聖剣フィニステラを顕現させ、その切っ先を秋雨へと向ける。


「こちら側としては、それなりの理由があって行動をしてるんだが?」

「だとしても、こんなことは間違っている」


 直ぐにでも切り掛かってきそうな奏多を制止するように、志乃とリファもようやく動き出す。


「これについては奏多に賛成ね。アンタ、流石に度が過ぎるわよ」

「私も志乃と同意見です。何もここまでする必要はないと思います」


 さて、どうしたものか――と秋雨は遥へと視線を向ける。

 遥も首を横に振って「何とかしなさいな」と目で語っていた。


「俺の考えが倫理的に正しいかどうかはどうでもいい。俺たち五行神家には果たすべき使命がある。そのためなら何だってやる。敵に情けをかける気はない。いつもと変わらない日常の為にも止まるつもりもない」


 聖剣の切っ先をスルーし、秋雨は再び男の頭を掴もうとした時だった。


「――っ⁉ 遥さん!」


 男の身体が急に風船のように膨れ上がった。

 秋雨の声と共に遥が動く。


 土之業(つちのごう)・陽型――黒岩封結(こくがんふうけつ)


 男の身体を全て覆うように黒い岩がドーム状に顕現する。

 そして、全てを覆いつくすと同時にドンという爆音が轟いた。


「やられた。口封じか」


 辺りに鉄のような臭いが立ち込める中、秋雨は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「完全に切り捨てたようやね」

「ああ、まったく邪魔されなければもう少し読み取れたんだけどな」

「ま、過ぎた以上は仕方ない。一先ず、中は大変なことになってるようやから、黒岩封結はこのまま維持。とりあえず神土守家(ウチ)の黒子に死体処理は任せなさいな」

「ありがとうございます。念の為、男の血は採取しておりてください。読み取れるかはわかりませんが、あとで再度試みますので」

「了解」


 手慣れた様子で事を進める秋雨と遥の二人に、奏多は眉間に皺を寄せて言う。


「何なんだよ、お前ら……」


 その言葉に秋雨は突き放すように答えた。


「俺たちの見る世界はこんなもんだし、前から存在していたんだよ」

 

 

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