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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉


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第5話

「流石は天災の愛弟子やね。師匠にてやる事も人騒がせやないの」

「別に騒がしくしたかったワケじゃないんですけどね。それよりもご足労いただきありがとうございます、遥さん」


 たおやかな足取りで和服に身を包んで現れた神土守遥(みどもりはるか)に秋雨は困り顔を浮かべつつ、お礼を述べた。

 現在、小倉駅は封鎖され、警察官が慌ただしく動いている。

 規制線の向こう側にはカメラを構えたマスコミや野次馬たちがガヤガヤしていた。


「まったく政府との話し合いの前に勘弁してしかったわ。お陰様で天災が意気揚々と政府を脅しとったよ。ま、これで予定よりも早く大手を振って動けるのだから、結果オーライってやつやね」


 扇子を口元に当てながら、含み笑いを浮かべる遥。

 その妙な色っぽさに周囲の警察官は勿論、マスコミに野次馬の男女問わずに視線を一身に集めてしまう。

 そんな様子と遥の言葉に秋雨は何とも言えない表情を浮かべざる得なかった。


「なあ、玉水。彼女は誰なんだ?」


 秋雨と遥のやり取りを見ていた奏多が痺れを切らして口を開く。

 遥か到着まで奏多たちの追及をのらりくらりと交わし続けていたこともあり、とにかく情報を引き出したいのだろう。


「あー、彼は俺と同じ五行神家の一角である神土守家の当主、神土守遥さんだよ」


 秋雨は奏多、志乃、リファへ、遥の紹介を簡単に行う。

 が、秋雨の言葉を聞いた三人は「え?」という表情を浮かべて、遥の顔を見ていた。


「ちょっと玉水? 彼女のことを彼って言った⁉」


 志乃が秋雨に詰め寄ってくる。


「やめろ。肩を掴んで揺らすんじゃない。気持ちはわかるがやめてくれ」


 グワングワンと肩を掴んで揺らす志乃に、秋雨は顔を顰めて両手で突き放す。


「えーっと、玉水さん? 神土守さんって女性ですよね?」


 リファが困惑した顔つきで恐る恐る言う。

 いつの間にかバタバタしていた警察官もその足を止めており、規制線の向こうにいる人たちもシーンとなっている。

 秋雨は額に手を当つつ、一度宙を仰ぐ。そして、クスクスと笑いを堪えている遥へと視線を向けると、パチンとウインクしてくる。


「…………残念ながら遥さんはこんな装いだけど、男だよ」


 この時、この場に静かな衝撃が迸った。

 現場にいた清き青少年たちの性癖は破壊され、女性たちは何故か地団太を踏んで負けを認め、野郎どもは新しい扉を開きかけた。


「とりあえず遥さんの性別が男とか女とか、ぶっちゃけどうでもいい」


 溜め息交じりに言い放つ秋雨。

 なお、この言葉に対して周囲の人々は「どうでもよくねぇよ!」と同じことを思っていた。


「この俺の足元で白目向いている奴。庄司含めて何か知らないか?」


 手足は手錠で拘束しているため、意識を取り戻したとしても易々と動くことはできない。

 ただ、魔法を行使される可能性を拭えないため警戒は怠れない。


「ルクシャ・ハーナ。五行神家ですら知らない封印している頂点捕食者(エルダーワン)の名をコイツは知っていた。ぜひとも異世界帰還者と出身者として情報を吐いてもらいたいね」


 秋雨は三人をゆっくりと眺めながら告げる。


「ちょっとアンタは何も話さないのに、アタシたちには情報を吐けって? それはあまりにも身勝手過ぎないかしら!」


 秋雨の態度に志乃が怒りを顕わにする。

 が、そんな怒りに怯むことも、真に受けることもなく、秋雨は「はぁ~」と大きな溜め息を吐く。


「悪いけど、これはお願いじゃなくて命令なんだわ。玲香さんが政府と話し合いをしたってことは、当初の予定通りに進んだってことですよね?」


 秋雨は遥へと視線を向ける。


「そうやね。五行神家の要求は全て飲ませたようやね。ま、私たちの上――やんごとなき御方も噛んでる以上、政府も受けるしかないからね」


 この会話を聞いていた奏多が口を挟む。


「待ってくれ。そもそも五行神家って何なんだ? それに玉水が使っていた魔法は何だ?」

「あー、厳密に言うと魔法じゃないんだよな。この世界で魔法を使うのは海外に拠点を置いている魔女会(ウィッチクラフト)の奴らくらいだよ。まあ、庄司たちが使う魔法とは体系が大きく違うけどな。はあ、嫌なことを思い出した」


 魔女会(ウィッチクラフト)に所属するとある魔女を思い出してしまい、秋雨はゲンナリする。


「あらあら、魔女会(ウィッチクラフト)で秋雨ちゃんがそんな顔をするのは、あの()のことでも思い出したんかな?」

「非常に不本意ながら思い出しました」

「そう言えば、近いうちに来日して会いに行くって言っとったよ」

「…………うわぁ」


 秋雨は眉間を抑えながら項垂れる。


「何勝手に話題を変えてんのよ!」

「はいはい。そう喚かないでくれ。ぶっちゃけコチラとしては情報を聞き出すことはしても、話すことは何もないんだよ」

「何でよ!」


 今にでも飛び掛かってきそうな志乃をリファが宥めている中、奏多が口を開いた。


「なぜ話せないんだ?」

「いや、大した理由じゃないぞ」


 面倒臭そうに秋雨は言う。

 それに奏多は怪訝そうな表情を浮かべた。


「なら話してくれてもいいじゃないか?」

「いや、話したら庄司(おまえ)たち首を突っ込んでくるだろ?」

「当たり前だ。何かが起ころうとしている状況を無視する気はないからな」


 異世界の英雄。

 その正義感と力を持っている自分がやらなければならないという意識。

 異世界で苦戦はあっただろうが上手く事が進み、帰還を果たした自信があるからこその台詞だろうか。

 聖剣と魔法、そして共に戦った仲間たちの存在もあるかも知れない。

 だが――と、秋雨は深い溜め息を吐く。


「はぁ……無視する気はない、か」


 周囲の温度が一瞬にして数度下がった。

 これは体感ではなく事実として気温が下がっている。


「な、なんだ? 急に寒く……」

「異世界で上手くいった程度で、こちら側に首を突っ込んでくるなよ愚か者」


 目を細め、秋雨は奏多を見下すように睨む。


「あの程度の下僕に手間取るような奴に首を突っ込まれても迷惑なんだよ」

「アンタ、何様よ!」


 秋雨の言葉に、志乃が噛みつく。


「はあ、どういった手段でそうなったのかは知らないが、正直視たらわかる。異世界で与えられた力程度で強くなったつもりか? 異世界(むこう)で英雄と持て囃されたのかもしれないが、こっちでその称号は何一つ役に立たねぇよ」


 そんな秋雨の言い草に、再び志乃が噛みつこうとしたのだが――、


「ひっ⁉」


 志乃は悲鳴を無理やり飲み込んだ。

 奏多も、リファも、顔を青くしている。


「本当に大した理由じゃないんだ。正直、異世界組(おまえら)が弱過ぎるんだよ」

 

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