第3話
「貴方は、玉水さん?」
「……どうも、メルクストーリアさん」
玲香に押し付けられた依頼の為、電車に乗って北九州市小倉区にやって来た秋雨は改札を抜けたところでバッタリとリファと遭遇していた。
なぜ彼女が此処に?
秋雨は脳内で思考を巡らせていた。
「どうして此処に?」
「奏多たちと一緒に漫画ミュージアムを訪れに来ました。今は個別で行動中で、私は食べ歩きです」
今日はイベントで改札を抜けた広場に飲食店が出店されており、彼女はそれが目当てだったのだろう。
リファの両手には唐揚げやケバブなどが入ったビニール袋が握られている。
「それ、全部食べるのか?」
「はい! 外にあるベンチで楽しもうかと思っています」
一人で食べるには多過ぎる量を全て食べると言い切るリファに、若干引きつつ「へ、へぇ……」と秋雨は声を溢す。
「玉水さんは今日は何をされるのですか?」
「ちょっとした観光だよ。ま、遊びに来たって感じだ」
「そうですか! なら、一緒にこれ食べませんか?」
リファは手に持つビニールを持ち上げながら言う。
秋雨は頭を悩ませる。
断るのは容易い。
だが――と、秋雨に視線を泳がせる。
周囲の注目が集中している。
要因は間違いなく目の前にいるリファ。テレビでも連日取り上げられているだけあり、全国的にも有名人の仲間入りをしている。
ただ、遠目から見ているに収まり近寄ってこないのは、いつかの事件が原因かも知れない。
「あー、この後ちょっと予定が……がぁ……」
「ダメでしょうか?」
秋雨が断ろうすると、どうしてかリファがシュンと落ち込む様子を見せる。
同時に何故か周囲からの殺意が増幅する。
チッ、と内心で舌打ちしながら、秋雨は頭を痛める。
(一応、多少は警戒はされている。だが、一緒に食べたいということに嘘はなさそうだ。さて、どうしたもんか)
秋雨の本心としてはさっさと仕事を終えて帰りたい。
だが、情報収集にある程度の時間を有する以上、今日一日で何とかなるものでもない。
それに――、
(異世界で頂点捕食者を信奉する者の有無を聞き出すのも手か?)
思考を巡らせた結果、秋雨はリファの申し出を受けることにした。
「はぁ、オーケー。一緒に食べよう。ただ、お金は出すよ」
なお、このお金はすべて経費で落とす気満々の秋雨だ。
「お金は大丈夫ですよ。ほら、行きましょう!」
「はいはい」
駆け出すリファの背中を追うように、秋雨も歩き出す。
その時だった。
「英雄パーティの一人。リファ・メルクストーリアだな?」
男の声。
灰色の光線が秋雨の隣を通り過ぎ、リファの背へと奔った。
が、リファは手に持っていたビニールを投げ捨てると、何処からか杖を取り出し、迫る光線を防ぎ切る。
突然の出来事に周囲が騒然となる。
「……どうやら私と同じ世界の者のようですが、何者ですか?」
「我々は頂点捕食者ルクシャ・ハーナ様の復活を望む者。偽りの神をお前たちが討ち、世界の境界が拓かれたことにより、ようやくこの地に降り立つことができた」
リファは男を睨みながら、秋雨の隣に立つ。
「玉水さん、ここは危険ですので隙を見て逃げてください。此処は私が何とかしますので」
杖を構えながらリファは言う。
秋雨としてはサッサと立ち去りたいのだが、目の前の男は間違いなく今回の依頼の重要人物。
「ソイツは英雄共にはいなかった顔だな?」
男は秋雨に目を向けて言う。
「ええ、彼は召喚されていませんから」
「なるほど。では、手始めにソイツを殺してみよう」
男が再び灰色の光線を放つ。
リファが秋雨を守るように前に出て、杖を構え、防御の魔法を展開する。
「甘いな」
男の言葉と共に光線は曲がる。展開された防御魔法を躱し、光線は秋雨へと迫る。
「やらせねぇよ!」
その言葉と共に光線を切り裂き、剣を手に奏多が現れる。
その後ろには志乃の姿もあった。
「リファ、それと玉水も大丈夫?」
「私は大丈夫ですよ、志乃。玉水さんは大丈夫ですか?」
その言葉に秋雨は静かに頷く。
(庄司、神楽坂もやって来たか。とりあえず、この男程度なら問題はなさそうだな)
冷静に分析しながら秋雨は男へと視線を向ける。
(さっきの灰色の光線が魔法か。ただ、出力はそうでもない。あと直線的なものだけではなく、ある程度は自由に曲げることができる。いろいろ面白そうな気はするけど、脅威ではないか)
今、秋雨たちを中心に周囲には野次馬が集っている。
スマートフォンを突き出し、撮影をしている者たちもいた。
(危機感のない馬鹿だな)
秋雨は眉間に皺を寄せつつ、内心で溜め息を吐いた。
「聖剣フィニステラ。なるほど、貴様が勇者カナタだな」
「そうだ。で、アンタはこんな真昼間から魔法をぶっ放して何用だ?」
「なに、ちょっとした余興だ。面倒な封印を解く為の試運転。ルクシャ・ハーナ様の力の一端を使ってみようと思ったまでだ」
男はそう言い、パチンと指を鳴らした。
すると男の足元周辺から人型ではあるが形容しがたい造形の化物が現れる十数体現れる。
「何よ、こいつら⁉」
志乃が頬に汗を垂らしながら口を開く。
「此処の魔力が……アルデネイラと同等です!」
「何だって⁉」
リファの言葉に奏多が驚きの声を上げる。
「アルデネイラのような所詮神と一緒にしないでもらおう。これはルクシャ・ハーナ様の下僕。即ち、力の一端なのだからな!」
下僕たちが一斉に動き始める。
その全てが奏多たちへ向かっているわけではない。
周囲にいた野次馬たちにも向かっている。
「マズいっ!」
奏多が叫ぶ。
しかし、奏多も志乃もリファも自身に向かってくる下僕の対処に追われている。
野次馬たちが一斉に踵を返し、我先にと逃げ始める。
スピードは下僕の方が早い。
「殴殺だ!」
男が叫んだ。
だが――――、
「周囲に手を出さなければ黙っているつもりだったけど、こうなってしまったなら仕方ないか」
一瞬だった。
この場にいた下僕のすべてが賽の目状に微塵切りにされた。
「まったく。仕事が早々に片付きそうなのは良いんだけど、こんなに派手になってしまうのは予想外だよ」
秋雨は面倒臭そうな表情を浮かべながら独り言のように言う。
「玉水、お前……」
奏多が目を丸くしながら口を開く。
志乃もリファも驚きで声が出ないようだった。
「何だ、貴様は?」
「何だ、ねえ? はあ、まあ答えてあげるが世の情けか」
頭を掻き、溜め息を吐いた後に、秋雨は告げる。
「五行神家の一角。神水守家が当主、神水守秋雨だ。さて、少しばかり話を聞かせてもらおうか?」




