第2話
政府との会談を一週間後に控え、高校も夏休みに突入。
連日、朝から晩まで骨董品屋に入り浸りながら、秋雨はレジテーブルに突っ伏していた。
閑古鳥の鳴く店内。
そもそも立地も非常に分かりづらい。
「玲香さん、くっそ暇なんですが?」
「まあ、骨董品屋としてはほぼ機能していないからね。来客なんて見込んでないし、来たとしても普通の客じゃないわよ」
カラカラと笑いながら玲香は煙草に火を点け、「ぷはぁー」と豪快に一服する。
そんな玲香の加える煙草の先端から燻る紫煙に視線を向け、秋雨は口を開く。
「そう言えば、最近異世界組に目をつけられているっぽいんですよね」
「あら、もしかしてバレた?」
「いや、バレてはないとは思います。ただ、違和感を認識されたかも知れないです。あ、一応ここに来る時は、適当に撒いて来ているので心配は不要です」
とは言え、秋雨としては鬱陶しいことは間違いない。
厄介なことに監視が使い魔らしきもので行っているらしく下手に手を出すワケにもいかない。
使い魔を消したら、それはそれで怪しまれる可能性があるからだ。
「もう、諦めてさらけ出してしまえばいいんじゃない?」
「……嫌ですよ。絶対に面倒な事になるじゃないですか。下手に首を突っ込まれても厄介ですし、彼らもそれなりに修羅場を経験しているみたいですけど、正直足りないです」
秋雨は溜め息混じりに言う。
「秋雨が言うのなら、足りてないことは間違いなさそうね。あー、ちょっとした面倒事を押し付けてやろうと思ってたけど、死なれたら目覚め悪いか」
吸い終えた煙草を灰皿に擦り付けながら、玲香は「使えないわね」とゲンナリとした表情を浮かべる。
そして、玲香は一枚の資料を秋雨に突き出す。
「……何です?」
「やんごとなき御方からのご依頼よ」
「あぁ、なるほど」
資料を受け取り、秋雨はその中身にサラッと目を通す。
「異世界人の流入?」
「そうね。異世界との境界が拓かれて、魔法のある向こう側の奴らが徐々に流入してきている。身元の判明している奴は良いのだけど、問題は身元不明の異世界人ね」
「要は不法入国ってことですか」
「ええ。この場合は不法入界かな? まあ、この際異世界人なんて、ぶっちゃけ犬の糞程度にはどうでもいいのよ。問題は頂点捕食者の封印にちょっかい掛けているせいで、下僕の出現が多くなっていること」
玲香は怠そうに言う。
「なるほど。あわよくば異世界組に下僕を相手にさせたかったワケですか」
「そ。ちなみにぶつけた場合の勝算はどの程度だと思う?」
「そうですね……十パーセント程度ですかね。もちろん、ある程度の犠牲を考慮してですけど」
顎に手を当てながら、秋雨は食堂での印象を元に答える。
あの中で最も強いのは奏多、次にノヴァク、あとは横並び――それが秋雨の評価だった。
「最も強いのは庄司奏多。恐らく異世界組の中でもリーダー的なポジションだと思います。実力としては俺以外の各家にいる術者の山吹……いや、ギリギリ赤に手が届く程度ですかね」
五行神家に在籍する術者には階級が設けられている。
下から黒、白、黄、赤、青、紫。
五行神家の当主は皆が紫。
なお、青と紫の間には決して埋められない実力差が存在している。
「赤……赤ねぇ……。まあ、元々が戦場を知らない学生だったと考えると十分過ぎるか」
玲香は「う~ん」と唸りながらボヤく。
「あの資料を俺に手渡したってことは――」
「秋雨、頼んだわよ」
「えー」
片目でウインクしながらサムズアップする玲香に、秋雨は苦虫を嚙み潰したが如きの表情を浮かべてします。
「玲香さんが行けば一瞬じゃないですか」
「それはそうなんだけど、残念ながらやんごとなき御方から『貴女はダメです(要約)』って釘を刺されちゃったのよね」
カラカラと笑いながら言う玲香。
秋雨は察した。
あ、いつもやり過ぎるからだ――と。
玲香が出ると後始末を行う者たちから非難轟々であるのはいつものこと。
曰く、「爆心地のようだ」、「この世の地獄」、「化物が過ぎる」と散々なもの。
そして、何故か秋雨の元に「何とかしろ」と苦情が届く始末。
どうやら玲香の御守り役として周囲からは思われている節があり、秋雨とはしては非常に不服だったりする。
「……わかりました。やりますよ。これも当主としての仕事なんでしょ? あー、本当に勘弁してほしいんですけど?」
「そんなワケで頼んだわ。交通費等は経費で落ちるから」
「当たり前です! これで経費にならなかったら暴れますよ!」




