第17話
今ある手札でアンネリーゼに致命傷を与えることができるのか――秋雨は思案する。
主として使用している術は全て有効打にはなり得ていない。
このままだと敗北は必至であるのは日を見るより明らかだった。
主に使う術は陽型と陰型。そして、応用の変形。
しかし、それだけではアンネリーゼには届かない。
「黒い雲使うと疲れるんだよねぇ」
黒い雲を消しながらアンネリーゼは言い、一つ息を吐いた。
そして、動く。
「まぁ、君が来ないなら、こっちから行くよぉ!」
アンネリーゼの姿が秋雨の眼前に現れ、胸へと手が伸ばされる。
が、寸前で水鏡渡りを使って回避する。
「……その魔法か知らないけど、面倒だねぇ」
永礼の顔が潰れた潰れた化物と美波子の顔が浮かぶ化物が秋雨へと向かって触手を伸ばし、薙ぎ払うように振り回す。
水之業・陽型――水刃刀。
迫る触手を秋雨は全て斬り捨てる。
「えー、迷いなく斬っちゃうんだぁ?」
「うるさい! 黙ってろ!」
秋雨は声を荒げつつ、水刃刀を手にしたままアンネリーゼに肉薄する。
「それはさっき無意味だったよねぇ?」
「知ってるに決まってんだろ! だから、こうするんだよ!」
水刃刀に別の力を流す。
それは秋雨が遥に与えられた基礎的な土の術。唯一使用できる別属性の術であり、それを統合することで意味を成す。
水之業・相侮反剋変化――土流刃。
五行思想において、土は水を吸収するもの。だが、弱い土の力は強過ぎる水を吸収できずに押し流される。
即ち、相侮反剋を用いた術であり、秋雨が今持ち得る奥の手だ。
かくして水の刃に土が混ざり、濁流の刃となってアンネリーゼを襲う。
「ちょっとォ! それは痛いんじゃないのぉ!」
驚きに満ちた声を上げながらアンネリーゼは濁流の刃に押し流される。
斬り割くまではいかなかったが、確かな手ごたえを秋雨は感じた。
「痛ったいなぁ……」
濁流が収まると、そこには腹部を真っ赤に染めながらアンネリーゼが立っていた。
「ちょっとでも力を抜いちゃうと中身が出ちゃいそうで困るんだけどぉ?」
少しだけ不満を含んだ声でアンネリーゼは言う。
秋雨としては、それで平然と立っていることに顔を顰めてしまう。
確実に刈り取るための奥の手だっただけに、秋雨としては非常にマズい状況だった。
「察するに今のが奥の手? なら次はないかなぁ?」
「……クソったれめ」
「さぁて、次の一手を見せてほしいねぇ」
アンネリーゼが笑みを浮かべながら、秋雨へそんな言葉を投げかける。
腹部を真っ赤にしながらも余裕を崩さない姿はあまりにも不気味であった。
「うーん、私に対する殺意が足りないんじゃなぁい? お父様とお母様の二人だけじゃダメだったかなぁ? だったら、君の通う学校の人にも手を出しちゃえは良いのかなぁ?」
「……あ?」
「ああ、怒った! 怒ったよねぇ? そっか、そっか……君ってわかりやすいねぇ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねながらアンネリーゼは喜びを爆発させる。
狂っているとしか言いようのない姿だ。
「……手を出すんじゃねぇぞ」
「うーん、それは君の頑張り次第かなぁ?」
と、秋目は背中に強烈な一撃を受ける。
頭だけ振り替えると、いつの間にいたのか――美波子の顔を持つ化物が触手を伸ばしていた。
触手は秋雨の身体を巻き取ると、そのまま何度も何度も地へと叩きつける。
「いっか~い、にか~い、さんか~い……まだまだ、いけるぅ?」
手加減されているのだろう。
秋雨の意識は途絶えずに保っていた。
しかし、触手絡めとられている以上、身体の身動きが取れない。
「主人公ならここで真の力を覚醒なんだけどなぁ?」
クスクスと笑いながら、何度も地へと叩きつけられる秋雨の姿を眺めるアンネリーゼ。
その時だ。
「疾風の加護よ、鋭利な刃となりて仇なす者を切り刻め」
女性の声と共に一陣の風が吹いた。
同時に秋雨を絡めとっていた触手が切断される。
更に秋雨の横を一つの人影が走り抜け、アンネリーゼへと向かう。
「雷光斬!」
その叫びと共に一筋の閃光がアンネリーゼに奔った。
が、アンネリーゼは大きく後方へ飛び退くことで、それを回避した。
「えぇ、勇者君じゃん? 遊びに来たのぉ?」
「孝也、頼む!」
アンネリーゼの言葉を無視し、聖剣を持った奏多が叫ぶ。
「メテオインパクト!」
アンネリーゼの間合いに飛び込む影――孝也が魔力を込めた拳を土手っ腹に叩き込む。
まともに攻撃を受けたアンネリーゼはそのまま川のど真ん中まで吹っ飛ばされ、水柱が上がった。
「……何で」
「玉水、私たちに弱いって言った割にはボコボコにされているみたいじゃない?」
杖を片手に二体の化物を風で拘束しながら、志乃が嫌味を吐く。
「まあまあ、そう言わなくてもいいじゃないか」
「孝也の言う通りだ。ま、簡単に言えば助太刀だ」
奏多と孝也の二人が秋雨の前に立ちながら告げた。
更に秋雨がよく知る声が聞こえる。
「まったく、何かあったら直ぐに知らせなさいって言ったでしょうに」
呆れた表情で現れたのは玲香であった。




