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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第一章:変化と喪失、決意
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第14話

 水之業・陰型――水泡記視。


 残された血に手を突っ込み、秋雨はその血に刻まれた情報を引き出す為に術を行使する。

 昨夜の記憶、今朝の記憶、そして――殺害時の記憶。

 流れ込む情報の波を咀嚼しながら、秋雨は実行犯の存在を視た。


「この女……あの男の記憶の中にも……」


 男の記憶上ではリーダー格と思われる三人の内の一人。

 そして、秋雨は確信する。

 今回に限っては既に起こっている五件の事件とのような無差別の偶然ではなく狙ってやられたと……。


「秋雨、何かわかった?」

「はい。小倉駅で爆殺された男の記憶で見たリーダー格の三人の内の一人が犯人です。恐らくその他の事件についても同一かと……」


 血から手を放し、赤く濡れた自身の掌をジッと見つめながら秋雨は答えた。

 そんな様子に玲香は何かを言いたそうにしたが、首を横に振って一つ息を吐いた。


「そう。外に私が呼んだ警察が来ているわ」

「……意味あるですか?」

「ま、私たちが公になった以上、一応は表向きに正規の手続きは踏むべきでしょ」


 下手な疑いを掛けられないようにする為にも重要よ――と、玲香に諭され、秋雨は外で待機する警察を家の中へと招き入れた。

 直ぐに始まる現場検証。

 同時に家の周囲に集まり出す野次馬。

 訪れた警察官らは秋雨へ「遺体が見つかっていない以上、希望を捨てないように」と励ましの言葉を口にする。

 しかし、水泡記視により両親の死を知っている秋雨には、励ましどころか、気休めにもならない。


「…………」


 秋雨は無言で玄関の扉へと向かう。


「玲香さん、ちょっと外へ出てきます」

「そう。こっちは任せておきなさい。ただ、何かあったら直ぐに知らせること」

「わかってますよ」


 秋雨は玄関の扉を開け、外へ出る。

 と――――、


「玉水!」


 そんな声が聞こえ、秋雨は視線を向ける。

 規制線の向こうに見知った顔――奏多たちの姿が在った。


「ちっ……何でこんな時に……」


 秋雨は舌打ちをしつつも、奏多たちの元へと向かう。


「おい、事件があったて聞いたんだが本当なのか?」


 奏多が秋雨に問う。


「…………それを聞いてどうなる?」

「もし本当なら俺たちも力に――――⁉」


 瞬間、秋雨は奏多の胸倉を掴み上げる。


「力になるとでも言う気かよ?」


 底冷えするような声音で秋雨は言葉を紡いだ。

 側にいた志乃と孝也も唖然として見ている。


「図に乗るなよ。良かれと思って正義を振るうか? 反吐が出るよ、偽善者め」


 押し飛ばすように秋雨は奏多から手を放す。

 キッと奏多たちを睨んだ秋雨だったが、直ぐにばつが悪そうに視線を逸らした。


「……悪いな。これはただの八つ当たりだ」


 フラフラとした足取りで、秋雨は足早に何処かへと向かっていく。

 そんな後姿を三人はただただ見送るしかなかった。

 と、そんな三人の元に家から出てきた玲香が声を掛ける。


「君たち異世界帰還者ね?」

「はい。ところで貴女は?」


 秋雨とのやり取りもあり、当惑しながら奏多は問う。


「五行神家の一角である神木守家当主の神木守玲香よ。ま、秋雨の師匠、兼アルバイトの雇用主でもあるわね」


 五行神家という言葉を聞き、三人の表情が動く。

 それを見た玲香は呆れたような笑みを浮かべて口を開く。


「君たち表情に出てるわよ。きっと五行神家について調べようとしていて、関係者が現れたから反応してしまったのね。まあ、経験が浅いわね。多少の修羅場は経験しているみたいだけど、まだまだね」


 玲香よりそんな言葉を受け取った三人は苦笑いを浮かべつつも、それぞれ自己紹介を行う。

 その後、何が起こったのかを玲香は簡単に説明した。


「――と、ざっくりと話をした通りよ。秋雨のご両親が何者かに殺された」


 玲香はそう断言するが、それに孝也が口を挟む。


「まだ遺体が見つかっていないのだから、亡くなったと決めつけるのは早計では?」

「ま、一般的に考えるのならそうかも知れないわね。だけど、ご両親の死を間違いなく実感しているのは秋雨本人。彼の術で記憶を読み取った以上、それは覆しようのない事実だからね」


 彼の術。

 それが何であるのかを奏多と志乃は知っている。


「確か、血液からでも読み取れるんだっけ?」

「本人に直接聞いたわけじゃないけど、話しぶりからそんな感じだったと思うぞ」

「ちなみにアレは水泡記視って術ね。秋雨が多少のアレンジは加えているけど、本来の術から大きくズレているものではないわね」


 玲香はサラッと術の名前を開示した。

 それに三人は呆けた表情を浮かべる。


「あの、そんな簡単に話してしまってもいいんですか?」

「あら、勇者君は秘密主義者だったりしたの? 別に開示したところで意味なんてないわよ。そもそも五行神家に伝わる術は、その血筋、或いは黒子の者にしか行使できないものだから。要するに君たちには例外を除いて絶対に使えないわ」


 あっけらかんに話す玲香に、奏多は眉を顰める。


「あの……彼、玉水を追わなくても良いんですか?」

 

 志乃が恐る恐る問う。

 すると玲香は少しだけ難しい表情を浮かべて答える。


「ま、追い掛けた方が良いとは思うけど、気持ちの整理も大事でしょう。それに――――」


 玲香は目を細めて、秋雨が歩いて行った方向をジッと見つめる。


「そうなることを待っているようにも思うからね」

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