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冥津之国 2

 中将首を提げて自陣へ戻る。周りは未だ戦の最中で、ぽつりぽつりと命の灯が途絶える断末魔の叫びが一際目立つ。

 川を越え、仮設テントのような陣営に上官はいる。この首をテント前の物見台に登って、戦況を確認している上官へビシッと敬礼をしてから近づく。

「どうした?」

「相手の中将倒して来ました。」

「ほお、見せてみ?」


 食い気味で、がっつくように顔を覗く上官。


「こいつには報酬として…五十万だな」


 命を掛けて演じた死闘の割には、意外と安い金額に驚く私の、様子に気がついた上官が続ける。


「その顔は、この報酬じゃ安すぎるって顔してるな?」

「いいか、そもそもうちは小国だ、お前に出せる報酬はそんなに多くないっというのが一つと、冥津之国はこの国よりも更に小国のしかも中将クラスとなると、この金額が妥当だな」

「わかりました、ところでこの首は必要ですか?」

「ああ?いや、結構だ、処理は任せる。」

「失礼します」


 私は一歩下がり敬礼をし、この首を処理しようと考え、適当に前線に行く途中の獄雷川にでも放り投げておく。



 再び最前線に舞い戻ってきた私は、次の目標(ターゲット)を探しに軽く見回す。


 状況は、比較的こちらの軍が優勢であり、冥津之国側としてはかなりピンチであると考えているだろう。前線はジリジリと押し上げられ、冥津之国はすでに絶体絶命。おそらく敵の大将は少しずつ押し上げられる前線に顔を顰めているだろう。何か打開策を打ち出して、この状況を覆そうと考えるだろう。

 先ほどまでの空気感は、何処かにふき飛ばされて、藪を突かれた大蛇が出てきた。敵方の大将である。いくら小国の大将とはいえ大将は大将である。一般兵とは風格が違う。空気感が違う。真夏の太陽に焦がされたアスファルトの近くの景色が、ゆらゆらと揺れ動くかのような存在感を放っている。そもそも鍛えられ方が違い、体格が非常にずっしりとしている。そして、存在感に当てられた私には、オーラのようなものも見える気がする。さらに、大将の動く椅子となり、相棒となる馬も筋肉の盛られ方が違い、周りの馬より1.5倍ほども大きいように見え、同時に私の出番が来たとも思った。

 持ち前の大槍で、馬と一緒に旋回を始めた。勢いはどんどん増して、私達の軍隊が惹きつけられてゆく。狂瀾怒濤の阿鼻叫喚。まもなく、私たちの軍は蹂躙される。

 今、大将の前に躍り出る。私に竜巻になり、勢いをつけて襲い掛かってくるので、自分の体重と腕力と、魂印で強化された刀を突き出す。


 ガキン


 込めた力虚しく、弾き出されてしまった。体格差が大きすぎたのもあるが、大槍に乗っている回転する力に負け、刀がへし折られるかと肝を冷やした。 大将は大槍に伝ってきた刀の反動に驚き、体勢を立て直していた。そして、きりとこちらを見据え、馬を駆けさせて、大槍を前に突き出し、疾風の如く突撃をしてきた。倒れゆく仲間に見守られる中、私はすぐに立ち上がり、私も大将へ向かって駆けた。


カン


 私は向かってきた大槍を、刀で逸らした。急所へ行くのは避けたが、左頬へ浅い切り傷刻まれる。そのままの勢いで、脇の方から切り上げようとした。しかし、そこまで甘くはないようだ。


キン


 刀の切先が脇の付近の鎧に触れるが、特注なのか恐ろしく硬い鎧が軋みもせずに、刀を強く弾き、私をよろめかせる。

 流石は歴戦の大将。その僅かな隙を見逃さず、一息に馬を翻して斬撃を放つ。そのまま、私の鎧はなす術もなく、真っ二つになり、斬撃は背中側の肩の方から腰へと肉を切り裂いてゆく。

 出血によって瀕死状態と大将に判断された私は、私の首を刈りもせず、私の陣地へとズンズン進む。

 私は、もはや意識が朦朧として、視界が歪み、白く濁り、それでも背中に走る壮絶な痛みにしばらく耐え続けた。この喪失感、体からは出してはいけないものを、この深い傷が流し出す。もはや立つことも叶わず、どさりと地面に倒れる。この痛いという信号が体の中を駆け巡り、同時に脳に訴えかけて来る。人間死ぬ時は、周りの時が引き延ばされたように感じて、なんだかこの世界にいないようにも感じる。私は耐える。救命の光明が見つかるかもしれない、耐え続ければ。しかし、精神でどうにかすることもできず、抵抗虚しく、やがて身体を構成する血液不足によって、意識を飛ばす。

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